「うちの保育園が嫌なら出て行けばいい!」〜保育園園長の事件簿

「うちの保育園が嫌なら出て行けばいい!」〜保育園園長の事件簿

連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第3回)
(保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志)

 今回は、「保育園園長の事件簿」というタイトルでお話しようと思います。前回の連載でもお話いたしましたが、園長先生にはそれぞれタイプがあり、その特性によって安全性も変わります。もちろん、園の雰囲気も保育の内容も変わります。今回は、もう少し具体的に園長先生のタイプ別によって起こるトラブルについて、実際に私が見たり聞いたりした事実を元にそれぞれのタイプの事件簿としてお話いたします。

5つのタイプがある園長の起こす事件とは?

 園長には様々なタイプがいますが、前回ご紹介した以下のタイプ分に、「事件簿」をご紹介しましょう。

目次

園長事件簿①(世襲型A)
園長事件簿②(世襲型B)
園長事件簿③(プロパー型)
園長事件簿④(雇われ型)
園長事件簿⑤(思考停止老害型)

園長事件簿①(世襲型A=二世だが、先代の考えを踏襲した上で発展)

 世襲型Aタイプは、世襲したが、情報収集や自己研鑽を怠ることなく、自分なりの保育を考え、先代から引き継いだものを発展させていきます。このタイプは、他のタイプに比べてトラブルは少ないという傾向があります。二世の経営者でも自己研鑽しているタイプは、やる気もあり、新しいことにチャレンジする姿勢があります。

 その一見して完璧に見えるタイプにも弱点はあります。情報収集や勉強熱心さゆえに、頭でっかちになり、現場の職人気質の先生ともめる傾向があります。職員を見下しているつもりはなくても、職員からしてみれば見下されている感じがするという状態が発生し、それが大量離職につながったりすることがあるのです。もちろん、当人は離職せざるを得なかった職員の気持ちを理解するということはありません。

 また、情報をたくさん持っているがゆえに、それらの情報の中から園長自身が選択するものが偏っており、保護者や職員に理解や賛同を得られない決断を下すこともあります。その結果、自滅してしまうこともあります。

園長事件簿②(世襲型B=極楽トンボの二世)

世襲型Bタイプは、世襲しただけで、保育の勉強も特段しないし、保育は現場任せ。自分は保育団体等で出会った他の世襲型Bタイプの園長とつるんで日本全国を遊びまわっています。

 このタイプの園長は、「亭主元気で留守が良い」ということで、現場の職員の仕事を邪魔することはありません。ですが、外出がちがゆえに現場のことをあまり知らないことが多く、事故やトラブルが発生した場合に対応ができないという傾向があります。

 私が対応した重大事故が発生した事故現場で、被害園児の顔がわからなかったという園長先生もいました。  また、自分の園の職員がいる前で、「私は保育園の園長なんてしたくはなかった」と言い放ち、職員全員がどん引きしていることにも気づかない園長もいました。園長先生自身の無意識のどこかにやりたくないけど、してやっているというものがある方も少なからず存在しているようです。

園長事件簿③(プロパー型=雇われ園長だが、生え抜きで一家言あり)

 プロパー型の園長先生は、保育士から始めていますので、保育に関しては知識も経験も問題ないレベルで身についています。しかし、前回の連載でもお話しいたしましたが、社会的なスキル(経理、労務など)に問題がある方がいらっしゃいます。

 特に保護者との問題に発展しがちなのは、「常識」です。私は保育園相手の仕事を始めたばかりのころ、知り合った園長先生から、「保育業界の常識は社会の非常識だから、脇がこれまで見てきた社会の常識で園長先生たちと接していたら、ストレスがたまっておかしくなるかもしれないから、その辺は適当に受け流した方がいいよ」というアドバイスを受けました。そして、そのアドバイスは今もすごく役立っています。

 園長先生の常識が保護者とのトラブルに発展する種になるのは、事故が発生したり、園に苦情を申し立てられたりしたときです。事故や苦情への対応は、その内容よりも言葉遣いや立ち居振る舞いの方が相手の逆鱗に触れる可能性が大きいのですが、園長の常識的な言動が相手の常識的な言動と差がある場合、二次クレームを生み出します。その傾向があるのがこのタイプです。

園長事件簿④(雇われ型=大手の保育園にいがちな雇われ園長)

 雇われタイプは、複数の施設を展開している株式会社や社会福祉法人の園長に多く見受けられます。このタイプが引き起こすトラブルは2つあります。

 1つは、法人の方針を無視して突っ走るトラブル。雇われ園長は、どこか他の法人で保育経験を積んだ方が多く、自分の保育の理想像がしっかりとできています。それゆえ、「私の保育が園の保育」という考え方から離脱できずに、保護者にも法人にも迷惑をかけ、はてはトラブルにまで発展してしまいます。もちろん、トラブル発生後は、園長自身は何が悪かったのかを理解できないので、本人ではトラブル対応はできません。

 もう1つは、判断できないために起きるトラブルです。保護者よりも法人の方を向いているがゆえに、自分では保育現場で起きたことに対して判断できない。あるいはしない。という傾向があります。事故やトラブルが発生したときには、トップが迅速につぎつぎに起きる事態に判断や決定を下していくというのが危機対応の大原則です。つまり、判断や決定をトップができないとそれ自体が大きなトラブルになってしまうのです。それに付き合わなければならない保護者も、待たされたあげく、聞いている質問と答えが合っていないということが永遠に繰り返され、イライラしてしまうという状況に追い込まれます。要するにトップになってはいけない人がトップを勤めている方々が多く見られるのが、このタイプです。

園長事件簿⑤(思考停止老害型=唯我独尊で人の言うことは全く聞かない)

 前回の連載でお話していないタイプを、追記しておきます。

 昔ながらの1法人1施設を守り抜いている幼稚園や保育園に多くいるのが、この思考停止老害タイプの園長先生です。先にお断りしておきたいのですが、私は、お歳を召していることが悪いと言っているわけではないので、そこは誤解しないでください。

 さて、このタイプの最大の特徴は思考停止していることです。思考停止とは、最新の情報を知らない。自分の知識がすべて。アドバイザーもいない。相手の言っていることが理解できず、回答もかみ合わない。というような状態をいいます。このタイプが園長として君臨している施設は、「最悪の保育現場」になります。

 まずは安全面が最悪になりがちです。安全とは、安全に関する最新の知識が現場に反映できていなければ意味がありません。たとえば、アレルギー対応などは、医学や科学が進歩するとともに進化させておかなければならないものです。でも、自分の持っている情報や知識がすべてと思っている園長は最新情報を得るための研修に自ら参加したり、職員を参加させたりというようなことをしません。その結果、20年前の情報や知識で安全対策を構築するということになります。このような現場では、いつ園児が死亡してもおかしくない状況なのです。このような幼稚園や保育園は全国に多数存在しています。

 次に、人事面も問題が多いです。保育は現場にいる職員がすべてといっても過言ではないと私は考えています。しかしながら、このタイプの園長は、人事を能力や技術、キャリアなのではなく、自分の好き嫌いで決める傾向が強くあります。その結果、園長先生から気に入られることだけを考えた職員の集合体になります。それで保育に悪影響を及ぼさなければいいのですが、そんなはずはありません。

 保護者への対応も最悪です。保護者が園の保育内容や施設利用に関するルールについて、意見や質問をしても、「嫌なら出て行け」という考えが園長の根底にあるので、まともな答えが返ってきません。質問や要望に対して答えるというコミュニケーションは簡単に見えて、結構、専門的なスキルを必要とします。でも、加齢のために自分の考えで頭の中が凝り固まっているので、そのコミュニケーションをうまく行うことができないのです。その結果、保護者との意思疎通ができずに、保護者にはフラストレーションしかたまらないし、園は一向に良くならないということになるのです。

まとめ 園長の特性を見抜いて要望を伝えよう