保育園内で園児が虐待されるのが、実は身近なことにありつつある理由とは?

保育園内で園児が虐待されるのが、実は身近なことにありつつある理由とは?

連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第7回)
保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志

保育園で園児が虐待されるという報道が相次いでいます。身近なことではないと考える保護者が多いのでしょうが、実はどの保育園でも、虐待は起こりうることなのです。現在の行政と保育園には、虐待をなくそうという力が働きにくくなっています。どうしてなのか解説していきましょう。

園児、虐待、保育園

福岡、熊本と虐待事件が明らかに

 福岡市が2月15日に認可保育所で、保育士が園児に「ブタ」「ばか」などと暴言を浴びせたり、押し入れに閉じ込めたりする虐待などが13件あったとして、児童福祉法などに基づき園を運営する社会福祉法人に改善勧告を出しました。

 市によりますと、2016~18年の3年間にわたり、園児をトイレに連れて行かずに、尿を漏らすと叱る、長時間正座させる、壁をたたいて驚かせて笑う、口から出した給食を押し込むなど13件の行為を不適切と認定。それらの行為には少なくとも女性保育士8人(20~40代)が関与し、ベテラン保育士によるものが多かったそうです。

 このようなことは、通常の保育園では起こっておらず、ある種の特別な園でしか起こらないのだろうと保護者の方は思うかもしれません。「うちの子が通っている園に限って」とタカをくくっているかもしれません。しかし、それは、水面下に隠れているだけで、どの保育園でも起こりうるリスクなのです。
福岡市の虐待事件から1カ月ちょっとしかたっていない3月26日。今度は熊本の認可保育所で3人の保育士が園児に暴言を浴びせるなどしていたことが明らかになりました。

 保育園と市によりますと、4年ほど前から、40代2人、30代1人の女性保育士が、忘れ物をした園児、歌が覚えられない園児を長い時間、叱るなどしていたということです。
 去年、保護者から2度の苦情を受けた熊本市が指導にあたったものの、改善が見られず、その後、保育士の言動を保護者側が複数回、録音した音声データが、今年1月に保育園と市へ提出されたということです。

虐待についてのデッドラインがない保育現場

 しかし、なぜ、保育園内での虐待行為はなくならないのでしょうか。その原因は2つ考えられます。1つ目は、「保育現場の責任者に危機感がない」からです。

 熊本の保育園の園長は、事件発覚後のテレビのインタビューに「3人の熱心さが行き過ぎた保育に繋がった」と答えています。このニュース映像を見たときに、園長のバカさ加減に私は声を出して笑うしかありませんでした。このコメントの裏には、「うちの保育士は、保育に熱心なあまり、園児に対する言葉かけが厳しくなったのです」という容認の姿勢があります。

 保育士が園児に対して絶対にしてはならない、超えてはならない線=「デットライン」はあるはずです。それを児童虐待研修などで、専門家である彼女たちは知っているはずです。でも、事例のような福岡市や熊本市の園内には、それは存在せず、保育士の機嫌によって園児があたられるという状況が日常になっているわけです。園児が怒られることによって、職員の気分が晴れるのであれば、それはもう園児が職員の保育をしているのと同じです。

 虐待に関するデッドラインは、園の中にもなければならないものですし、園長の中にも、保育士1人1人の中になければならないものなのです。

行政は不適切保育の抑制には機能しない

 保育園内の虐待行為がなくならない原因の2つ目は、行政が虐待抑制機能を持たないからです。

 さきほども触れましたが、園長は園内虐待対策に本気で取り組んでいません。その理由は、園児を叱っている保育士を厳しく指導したら辞められるからです。今、保育士に辞められると、その代わりの保育士を探し出すのは至難の業です。そうなると、辞職者は出たけど、その穴は埋められなかった。そうなると、最低配置基準を下回るので、保育園として法律上成り立たなくなります。だから、見て見ぬ振りをするのが妥当な対策となるわけです。

 これと同様に、虐待行為が行われた保育園をつぶせない事情が行政にもあるのです。普通に考えてみて、私ならば、虐待行為が発覚した保育園は認可取り消し処分にします。ちなみに事例の園は両方とも認可私立園です。でも、虐待に関与した保育士をトカゲのシッポとして切り落として、あとは何もなかったように日常に戻る、というのが通例です。

 この背景には、「待機児童解消が政策最優先」という事情があるからです。園の認可を取り消せば、そこにいる園児たちは一時的に行き場を失います。つまり、その園児の数だけ待機児童の数が上乗せになります。そうなると、市の保育課には、「なにやってるんだ」という行政内の内部圧力がかかります。だから、行政もよっぽどのことがない限り、積極的に動かない。という図式が成り立つのです。熊本の事例も最終的に行政を動かしたのは、保護者の録音です。

 これこそまさに、行政と保育園には、自浄作用など働かないことの象徴だと思います。

「保育園に行きたくない」は黄色信号

 最後に「もしかしてうちの園も…?」と疑った方が良い黄色信号について書いておきます。

 前回までにも書きましたが、保育士が「あいさつをしない」「返事をしない」「目を合わせない」などの行為をしていれば、すでに黄色信号です。なぜなら、人から見られているという客観性に欠けているので、自分の言動を客観的に見ることもできず、暴走してしまう傾向が認められます。

 しかし、それよりも濃い黄色信号は、子どもの「保育園に行きたくない」という言葉です。もちろん、ママやパパと一緒にいたい、甘えたい、という思いから「園に行きたくない」という発言はあると思います。

 でも、保育園に行ったら、鬼のような保育士がいるから行きたくないという意味での発言の場合もあります。逆に「○○先生すきー」みたいな先生に対するポジティブ発言が出ているときは、安心してもいいと思います。

 保育園内の虐待問題は、これからますます過激になることが予想されますし、件数も増えると思います。つまり、どんどんみなさんの身近になってくるということです。お気をつけください。

(参考になる記事)
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