保育士資格を活かせる職場「重症心身障害児(者)施設」とは?

保育士資格を活かせる職場「重症心身障害児(者)施設」とは?

保育園で働く以外にも、保育士の経験を武器に輝くことのできる職場はたくさんあります。今回は、「重症心身障害児(者)施設」についてまとめてみました。筆者が実際に勤務していた時の体験談や、間近で見てきた保育士の姿と併せてご紹介します。
(元・保育園園長 藤森みずほ)

<目次>
1.重症心身障害児(者)施設ってどんなところ?
2.保育士の役割は?実際に何をするの?
3.夜勤って大変?
4.キャリアアップの道
5.まとめ

1.重症心身障害児(者)施設ってどんなところ?

重症心身障害児(者)施設(重心施設)には、重度な知的障害および重度な肢体不自由が重複している児童が入所しています。児童福祉法では「福祉型障害児入所施設」と「医療型障害児入所施設」の二つに分類されています。
・「福祉型障害児入所施設」は、「入所者の保護、日常生活の指導及び知識技術の付与」を支援
・「医療型障害児入所施設」は、加えて「治療」を行う施設
となっています。
参考:厚生労働省『障害児支援の体系』 

入所児の特徴としては、肢体不自由があるため、自力で起き上がることが困難な状態が多く、入所児のほとんどが車椅子かベッドごと移動をしています。排泄については全介助である場合がほとんどで、食事においても、自力でできないことが多いため介助が必要です。知的障害の程度によっては、意思疎通が困難な場合も多く見られます。

重症心身障害児施設では、医師・看護師・介護士・保育士・理学療法士・作業療法士などの専門スタッフの適切な治療や養育を提供しています。

2.保育士の役割は?実際に何をするの?

重症心身障害児施設での保育士の主な役割は、食事・排泄・着替え・入浴・移動などの日常生活のお世話や介助をすることです。オムツ交換や入浴介助など、看護師や介護士と同じ業務である部分も多いですが、日々のレクリエーション活動を計画したり、季節行事を中心となって行ったりすることが保育士の活躍できる場面となります。

入所児は、重度の障害や合併症によってできることが限定されており、言語での意思疎通ができない児も多くいます。ですが、健常児と同じようにおやつの時間が楽しみだったり、音楽や散歩が大好きだったりするのです。

私が以前勤務していた施設では、誕生日会やバス遠足などの大きな行事について保育士と介護士が中心となって運営・実行していました。特に、幼児期~学童期の入所児の活動計画は保育士がメインで立案していたので、お部屋の装飾や製作活動、手遊びなどは保育園の様子に近しいものがあります。対象の入所児は学校にも通うので、付き添いで一緒に登校することもありました。

3.夜勤って大変?

重症心身障害児施設は365日24時間稼働しているので、交代制で夜勤のあるシフトとなります。交代の時間は施設によって異なりますが、正社員で働く場合に夜勤は必須となる施設が多いです。夜勤の経験が無いと、初めのころは生活リズムが乱れ、体調を崩しやすくなってしまうかもしれません。

私は初めての夜勤で一睡も仮眠がとることができず、翌朝の申し送り中にうたた寝してしまい、先輩職員に怒られてしまった失敗があります。しかし、少しずつ慣れてくると、仮眠休憩中にしっかり眠ることができたり、夜勤明けの休日も楽しめるようになりますよ。

夜勤をやることで、「夜勤手当」をもらえます。1回ごとの夜勤シフトには「夜勤手当」が付く施設が多いので、夜勤を多く入れて給与アップを目指す職員も少なくありません。

夜勤は保育士や介護士の福祉職だけではなく、看護師はもちろん、常駐医師がいます。入所児の急変にはすぐに対応してもらえるので、心配はいりません。

4.キャリアアップの道

私がおすすめする重症心身障害児施設でのキャリアアップの方法は、新たな資格を取得することです。冒頭でも記載した通り、重症心身障害児施設には様々な資格を持った職員が働いています。多くの保育士以外の資格を活かして働く人を間近でみることができます。コメディカルスタッフ(医師の指示の下で医療業務を行う人)以外にも、

・「児童指導員」(養護を必要とする子どもが健全に成長できるよう、生活環境の整備や生活指導を行う資格)
・「児童発達支援管理責任者」(通称、児発管。障害児に対して、個別支援計画に基づき計画的かつ効果的な支援を提供。放課後等デイサービス、児童発達支援施設は、常勤で専従の児童発達支援管理責任者を最低1名配置する必要がある)
・「第一種衛生管理者」(労働者の健康障害の防止を目的に、作業環境管理、作業管理及び健康管理、労働衛生教育の実施、健康の保持増進措置など。常時50人以上の労働者がいる事業場では衛生管理者が必要)

など、実務経験を要する資格を活かして勤務している人もいます。

保育園の中では見ることのできなかった職種の実際の業務内容を知ることは、自分の働き方の可能性を広げてくれます。

新しく知りえた職種や資格のうち、興味のあるものを調べてみることから始めましょう。そこからあなたのやりがいにつながるキャリアアップの道を探すことをおすすめします。

当時の同僚に「もっと入所児のためにできることを増やしたい」という思いから、保育士から准看護師資格を取得した人がいます。定時制の専門学校に進学したため、保育士として正社員で働きながら通学していました。勤務先の施設からは学費の補助があったため、経済面での不安は全くなかったと語っていました。日々のシフト勤務に加え、社会人になってからの勉強はとても大変だと話していましたが、2年間の就学を経て、資格取得後は月給や各種手当、賞与も大幅アップしたので、ますます意欲的に仕事に取り組んでいる様子が見られました。

また、たくさんの異なる職種の人と働くこと自体がスキルアップにつながります。日々の援助を多岐にわたる職種の人と協力して行うことはマネジメント能力やコミュニケーション力を育てます。これらのヒューマンスキルを鍛えるには絶好の職場だと筆者は考えます。身に付いたスキルを活かして、リーダー職や管理職を目指す道もありますね。

児童指導員とは? 参考:福祉医療機構「児童指導員」

児童発達支援管理責任者とは? 参考:厚生労働省「児童福祉法の一部改正の概要について」

第一種衛生管理者とは? 参考:安全衛生技術試験協会「衛生管理士」

5.まとめ

保育園は最長で6年保育ですが、重症心身障害児施設の入所児は、親元を離れ何十年とその施設で過ごすことになります。場合によっては、最期の看取りまで行うこともあります。よって、援助する職員は家族以上に濃密な時間を共に過ごすことになるのです。

実際に働いてみて、その責任や難しさに日々直面することは少なくありませんでしたが、入所児の笑顔を見られたときの喜びや達成感、やりがいは大きいものでした。肉体的にも精神的にも保育施設よりハードな面もありますが、それ以上に得られるものも大きい障害児支援。興味を持たれたら一度、施設見学をしてみてください。きっと、働き方の可能性や視野が広がります。

【藤森みずほ】現役の看護師であり、保育士。笑顔で働き続けたい女性のためのキャリアコーチとしても活動中。Noteはこちら