保育所などの保育施設を、保護者のリフレッシュのために利用することを総じて「リフレッシュ利用」と呼びます。「仕事を休んで、昔の友達とランチに行った」「有給を取って家で映画を見ていた」など、リフレッシュ利用をする人は一定数います。今回は様々な立場の方からのお話と併せて、筆者の園長時代の事例や考察をまとめました。(元・保育園園長 藤森みずほ)
- そもそも保育所の目的とは?
- 預ける側の思い
- 預かる側の思い
- 園長時代の実際の対応
- 筆者の保護者としての経験
- まとめ
1.そもそも保育所の目的とは?
まず、「保育所」の目的について確認しましょう。
児童福祉法第39条第1項によると「日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児または幼児を保育することを目的とする施設」と位置づけています。
「認可保育所」を利用するためには、「保育に欠ける」という要件を各区市町村で認定を受ける必要があります。就労、出産、傷病、休職中、通学など様々な要件がありますが、認定を受けた要件で入所が決まったのに、違う要件で預けることはルール違反となり、「認定取り消し」や「退所」を言い渡されることがあります。
例えば、就労要件でお子さんを保育園に預けている場合、仕事がお休みの日は原則預けてはいけないということになります。
参考:厚生労働省「保育所利用の仕組み」
2.預ける側の思い
関東在住の1歳と3歳のお子さんのママであるAさん(元保育士)は、
「2人目を妊娠してるときに、仕事が休みだったけど産前ランチに出かけたことがあります」
と遠慮がちに話してくださいました。「少し早くお迎えに行くと、『今日はママお休み〜?』と先生に聞かれるので、休みの日に預けるのは精神的にハードルが高かったです」(Aさん)
次に、Bさんはこれから出産を控えている育休ママ。
「保育園に預けて仕事復帰する予定です。保育料を払う以上、どんなときにどれだけ預けても良いと思っていました。就労要件で預ける場合は、美容院に行くために保育園に預けるのは駄目ってことですか? 別の保育園にまたお金を払って一時保育使いなさいってこと?」
という疑問が浮かんだ、とお話してくださいました。
3.預かる側の思い
一方で、「休みの日は預けることは辞めてほしいです。」と話してくれたのは、23区内の認可園の保育士Cさん。
「保育園は、常に人員不足でサービス残業。そんな中、いつもはスーツ姿でお迎えに来るお父さんが部屋着のような格好で来ると、『休みだったのか!せめていつもより早く迎えに来てよ!』とつっこみたくなります。」(Cさん)
とはいえ、自身も保育園にお子さんを預けている保育士Dさんは、
「独身時代は、休みなのに預ける保護者へ腹が立っていました。でも、自分が保護者の立場に立ったとき、一人の時間を確保するには休みの日に保育園に預ける選択肢しかないのが現実です。仕方ないことなのではないかな」
とお話してくださいました。
4.園長時代の実際の対応
筆者は昨年度まで都内の認可保育園で園長を務めていました(現在は退職し、フリーランスの看護師・保育士として活動中)。
認可保育園では、両親のどちらかが休日の場合は園児もお休みするというのが基本的なルールです。しかし、保育所には「保育サービス」「子育て支援」という役割もあると考えていたので、厳しく取り締まることはしませんでした。
普段通っている保育園の他にファミサポや他園の一時保育を利用することは二重保育となり、子どもへの負担が大きいのでやめてほしいし、かといって、保護者が育児と仕事に追われて心も体も倒れてしまうのでは本末転倒だと思っているからです。子どもの最善の利益に反映されるのであれば、リフレッシュ利用も必要なものだと考えていました。
ただし、休日ということを隠さずに預けてほしいということだけは厳守してもらいました。例えば、急病などで緊急連絡が必要な際に職場へ電話連絡をしてしまうと、連絡がとれるまでに時間がかかってしまうからです。信頼関係を築くためにも隠し事や嘘はやめてほしいと入園時にお伝えしています。
休日のお預かりについて、現場の保育士からは不満の声があがったこともあります。しかし、実はその不満はお給料への不満だったり、自分たちの労働条件に対しての不満だったりすることがわかりました。面談をしてこちらの考えを伝えたり、業務上の問題点を改善したりすることで、どんな状況下のお子さんも気持ちよくお預かりする姿勢を取り戻すことができました。
5.筆者の保護者としての経験
筆者は出産後、育休を取らずに仕事復帰をするため、我が子を産後2カ月から保育園に通わせました。月齢が低いこともあり、できる限り早くお迎えに行こうと努力していましたが、スーパーやコンビニでの買い物やATMなどに寄ってから保育園に向かうことも多々ありました。
保育園によっては「仕事が終わったら保育園に直行すること」と厳しく決められていて、スーパーの袋を持っていたら叱られたという話を聞くこともありました。我が子が通っていた園は「買い物は、赤ちゃんいないほうが早く済んで良いわよね!」と温かい反応でとても有り難かったです。
6.まとめ
それぞれの立場で、考えや想いが異なる保育所のリフレッシュ利用。まずは、多様な意見を知ることが双方の理解につながるのではないかと感じました。施設の方針はもちろんですが、それ以前に国が示す保育所の役割があり、各ご家庭が支払う保育料以外に多額の税金が投入されて我が子を保育してもらっているという視点も忘れてはいけないと思います。
保育園側は保育士の不満の根っこを明らかにすることで、保育士の反発は少なくなると思います。一方で、保護者側は「ルール」と「マナー」を守って利用することが大切だと感じました。
どのような場合であっても保育所は「子どもの最善の利益」を追求し、守る場所。保護者と園が信頼しあい、協力していくことが社会全体で子どもを育てるということの本質として重要なものだということを忘れてはいけないですね。
【藤森みずほ】現役の看護師で保育士。看護師長や保育園園長の経験者。笑顔で働き続けたい女性のためのキャリアコーチとしても活動中。Noteを運営中