まもなく「保育の量」が問われる時代は終わり、「保育の質」が問われる時代に突入する

まもなく「保育の量」が問われる時代は終わり、「保育の質」が問われる時代に突入する

連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第12回)
保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志

保育士 会議

保育業界では、にわかに「量の議論」から「質の議論」へと関心が移り始めています。保育園の量はかなり充足してきたからです。「保育園の質」を見る際、質の高さとともに、リスクマネジメントをしっかりとしているかどうかが重要になります。

保育業界は量から質の議論へ

ここ十数年、保育を取り巻く最大の問題は、「待機児童解消」でした。これは、保育園を利用したい人たちと受け入れる施設の量の調整です。もちろん、保育園の方が足りなかったので、施設整備が課題だったわけです。
 先日、行われた参議院選挙では、立候補者たちが「待機児童解消」という演説も公約もあまり目立ちませんでした。これまでの選挙では、地方選挙でも国政選挙でも「待機児童解消」を言わない立候補者を探すほうが大変でした。これは、保育施設の整備が待機児童の数に追いついたことで、待機児童解消にメドがついたということを表していると考えられます。
 そして、今、保育業界はにわかに「量の議論」から「質の議論」に移ってきているのです。

どんな保育園の質が高いと考えますか?

保育の質とは、学者や行政関係者、保育施設運営者が決めるものではなく、利用者が決めるものだと私は考えています。では、次の保育園では、どの施設の保育の質が高いとみなさんは思いますか? これは、今後の保育園の利用者評価にも使えますので、少し考えてみてください。
Q1.保育園が行っている保育の内容(お散歩、給食、読み聞かせ、午睡など)の種類の数では、どちらの園の質が高いと思いますか?
A1-1.10種類
A1-2.30種類

Q2.保育園が行っている保育の内容のレベル(数が小さい方が低い)は、どちらの園の質が高いと思いますか?ここでいうレベルとは、一般化された指標ではなく、保護者が感じる保育士の丁寧さや発表会や運動会の段取りの良さを表現したものとします(たとえば、園外保育の場合、遠足よりも1泊2日のキャンプの方がレベルが高いということです)。
A2-1.レベル3
A2-2.レベル8

Q3.保育園にある固定遊具(すべり台やアスレチックなど)やおもちゃの数では、どちらの園の質が高いと思いますか?
A3-1.固定遊具3個、おもちゃ5個
A3-2.固定遊具7個、おもちゃ20個

いかがでしょうか。普通に考えると、数の多い方が質は高いと考えられるのではないでしょうか。特にQ2の保育内容のレベルは、保育の質を決める要素の中でも最重要でしょう。

今、保育現場では保育放棄が始まっている

先ほどの質問で「質が高いのはどちらか」ではなく、「リスクが高いのはどちらか」という質問に変えたら、答えはどのようになるでしょうか。その答えは、先ほどの答えと同じになります。数が大きい方がリスクも高いのです。
 今年も日本全国のいろいろなところから講演依頼をいただき、そのいく先々で保育の現状をうかがいますが、そこである変化が起きています。保育園の安全対策という名目で、プール活動をやめる園が出てきています。今年の5月、お散歩中に大津で園児が死亡する交通事故が起きてから、お散歩をやめたり、コースを短縮したりする園も出てきています。
 リスクマネジメントの手法の1つとして、「あぶないことはしない」という危機回避という手法はあります。たとえば、「海にはサメがいるから、泳ぎに行かない」という手法です。しかし、リスクマネジメントとは、リスクを安全に取るためにある考え方です。その目的はリスクを取り、リスクマネジメントによりそのリスクをコントロールし、リターンを手に入れることにあるのです。
 つまり、安全対策という名目で保育内容を削っているのは、単なる保育現場での保育放棄なのです。

現在の保育園には4タイプある

ここまででもおわかりのように、保育園の質の高めかたとリスクマネジメントには密接な関係があります。その角度から見ると、今、保育業界には4タイプの園があると考えられます。
1. 無謀拡大タイプ
 なんでもかんでもやればいいということで、リスクマネジメントすることなく、保育内容も増やし、レベルも上げることが保育の質を上げることだと勘違いしている昔ながらの勘違いしている保育園。

2. 保育放棄タイプ
 安全対策という名目の下に保育内容を縮小、あるいは放棄している保育園。「安全のために○○の保育をやめます」というのは、保護者に対する脅迫と同じです。

3. バランス成長タイプ
 保育内容の中にあるリスクを分析し、対策を講じており、少しずつレベルアップも図っている保育園。

4. 現状維持タイプ
 これまでやってきたことをそのまま続けていく保育園。保育の質の向上などにも興味がない。

 私の感覚では、上記の4タイプは、4→1→2→3の順に存在していると思います。みなさんがお子さんを通わせている、通わせようと思っている保育園は、上記のどのタイプでしょうか。「3.バランス成長タイプ」以外は問題が生じていると考えたほうがいいでしょう。
 また、「保育の質が高い」と思われる保育園は実は、あまり多くありません。

保育園が淘汰されるステージへ

10月1日から「幼児教育・保育の無償化」が始まります。潜在待機児童がたくさん出てくるという予測もありますが、私は、そのようになる都市は日本の中でもほんのわずかだと思っています。大半の都市は、預け入れたい子どもの数が保育園の受け入れ枠を下回る定員割れの状態に陥ると思います。
 そうなると保育業界の次の段階は、保育園が淘汰されるステージです。これからの保育園は生き残りをかけた競争が始まります。
 そのステージで主導権を握るのは保育園を利用する保護者の方々です。近い将来、保育園も選べる時代になってきて、選ばれない園はつぶれるようになります。ようやく、「保育の質」が問われる時代に突入するのです。そして、保護者の方々の選択が良い保育園を作っていくのです。保育を選択できず、おしつけられる時代は間もなく終わります。みなさんも保育園に建設的な意見を伝え続けてください。