「子ども・子育て新支援制度」の一環として作られた保育園のうち、企業が関わっているのは「事業所内保育」と「企業主導型保育事業」があります。似ているようで、基準や設定上の違いがあります。今回は、両者の特徴とメリット・デメリットをお伝えします。(ライター・松原夏穂)
事業所内保育とは
「事業所内保育」とは、平成27年(2015年)に「子ども・子育て支援新制度」で新たに設置された、地域型保育の一つです。保育所(原則20名以上)より少人数の単位で、0~2歳児の子どもを保育する事業です。企業の事業所の保育施設などで、従業員の子どもと地域の子どもを一緒に保育します。3歳以上は転園が必要ですが、連携している保育所・幼稚園・認定こども園が受け皿としての役割を果たします。
自治体の認可を受けているので、認可保育所になります。
企業主導型保育事業とは
「企業主導型保育事業」とは、「子ども・子育て支援新制度」の中で、平成28年(2016年)創設の「仕事・子育て両立支援」の一つです。
企業が設置して保育事業者に運営委託する「単独設置型」、保育事業者が設置して企業が利用する「保育事業者型」などがあります。対象年齢の制限はなく、週2回程度の就労や、夜間・休日勤務など、従業員の多様な働き方に対応できます。
「企業主導型保育事業」は、企業が主導で設置する、認可外保育所です。認可外保育所は自治体からの認定を受けずに設置できますが、対して国からの補助金を受け取ることができません。しかし、企業主導型の保育所に関しては、整備費や開所後の運営費が国から支援されるため、多くの企業が参入しました。
ちなみに、2016年度に助成が決定した施設は871施設・定員20,284人分でしたが、2017年度には2,597施設・定員59,703人にまで増加しています。これが問題を招くのですが、後ほど説明します。
参考:内閣府「企業主導型保育事業について」
内閣府「企業主導型保育事業(概要)平成30年12月17日」
事業所内保育のメリット・デメリットは?
以下で、事業所内保育と企業主導型保育事業のメリット・デメリットを、保護者の立場からみていきましょう。
メリットは、一定の質があること
事業所内保育のメリットは、認可保育所であるため一定の保育サービスが保証されることです。職員の配置基準も定員数でしっかり決められています。
デメリットは、保育認定が必要なこと
定員の4分の1を地域枠にすることを義務付けられているので、従業員向けの枠は少なめです。
また、開設が難しく申請しても時間がかかるため、結果、保育所の数が増えないことも挙げられます。
デメリットではありませんが、認可保育所のため保育認定(3号)を受ける必要があります。
企業主導型保育のメリット・デメリットは?
メリットは、融通が効きやすいこと
企業主導型保育事業は、認可外保育所のため、保育時間や延長保育の融通が利きやすいです。保育認定も受ける必要はありません。
「定員の2分の1までの範囲で地域枠の設定が可能」なので、その時の子どもに状況に応じて、従業員の子どもも地域の子どもも、柔軟に受け入れることができます。
また、国から運営費の補助を受けているので、一般的な認可外保育所より保育料が安くなります。
デメリットは、保育士の人数が少ないこと
保育所によりますが、認可保育所より保育士の人数が少ない、施設が狭く園庭がない場合も。他の保育所でもありえることですが、子どもを預けることを検討する場合は、必ず見学に行きましょう。
また、開始まもない制度のため、運営が安定していない保育所もあり、突然の閉鎖などが心配な場合も。
企業主導型保育事業の課題
ある企業主導型保育所は、開設から2か月で閉園。数人いた児童は、行き場をなくしました。原因は、この保育所を雑居ビル内に設けた会社の、運営資金不足とみられます。
前述のように、国から運営費の補助を受けても、実際に補助金が支給されるまでは時間がかかります。経営者が保育制度をよく理解しないまま、開設したようです。
また、工事について虚偽の申告をして助成金をだまし取った悪質な業者もいます。
このような悪いニュースもあると、自然足も遠のきます。更に保育施設のニーズの高い都心での整備が進まず、対して低い地方で整備が進んでいる事情も。
2019年4月、会計検査院が、利用状況をサンプル調査した結果を公表しました。定員に対する児童数の割合(充足率)が5割以上の園は、約60%でした。
会計検査院は、「助成の効果が十分に表れていない」として、所管の内閣府に改善を求めました。
参考:日本経済新聞「ちぐはぐ保育誰のため? 定員満たせぬ『企業主導型』 安易に開設、見通し甘く」(2018年11月7日付)。同「企業型保育所 進まぬ利用 4割が定員半数割れ 助成で急整備、安定運営に課題」(2019年4月24日付)。同「企業型保育所不正が横行」(2019年8月8日付)※会計検査院とは、国会・裁判所に属さず、内閣から独立した憲法上の機関。国や法律で定められた機関の会計を監査し、会計経理が正しく行われるよう監督する。
見直される企業主導型保育事業の要件
2019年3月内閣府は、「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会」を開きました。これにより、以下のことが取り決められました。
1.新規開設する保育事業者は、5年以上の保育施設運営実績があること。
2.定員20名以上の施設では保育士の割合を、これまでの50%から75%に引き上げること。
3.定員充足率などの情報公開。
4.自治体への定期報告の義務化。
現在、内閣府は上記の方向性に沿って、本事業の制度の在り方を見直し、2019年度の政府による実施施設の新規募集の時期等は、未定となっています。開設を急ぐあまり、運営が後回しになっていた施設もあるので、これは歓迎すべきことですが、そこまで徹底されるかは不透明な部分が多いので、注意したいところです。
参考:内閣府「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会報告平成31年3月18日」、
内閣府「今後の企業主導型保育事業の募集等について」
東京都が、企業主導型保育事業に独自の支援
一方、東京都は、「企業主導型保育事業」に対して、国の助成の対象外の備品等の購入経費に対し、助成する独自の支援制度を実施しています。
2019年度は新たに、保育士の業務負担の軽減を図るため「保育業務支援システム導入に要する経費」の助成を新設します。主なものとして、
1.事故防止に資する備品=安全策、室内用安全マット、防犯カメラ等
2.室内遊具=すべり台、クッション遊具、玩具(継続的な使用が可能なもの)等
3.その他保育活動に必要な備品=什器類(テーブル、イス、ベビーベッド)、厨房用品類(調理器具、冷蔵庫)等
4.保育業務支援システムの導入(新設)=システム導入に係る初期費用(ソフトウェアの購入費)、システムの使用に必要な機器の購入費用(パソコン、タブレット端末)等
これらを定員に応じて、最大375万円まで助成します。
待機児童問題を解決したいという、東京都の姿勢が伺えます。特に「4. 保育業務支援システムの導入」により保育士の作業負担が減り、人材不足が解消してほしいものです。
参考:東京都都政情報「企業主導型保育施設設置促進助成金の受付を開始します!」
まとめ
「事業所内保育」と「企業主導型保育事業」の違いを、この記事を読んで理解いただけたら幸いです。子どもの年齢や保育料を考慮して、各家庭に合った預け先を選んでください。
また、企業主導型保育は、設置から3年で、見直しが必要な時期が、来ていたのかもしれません。これを機にしっかり整備され、頼もしい保育の受け皿になることを期待します。
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