企業主導型保育施設で「トラブルが多発」すると私が予想する理由

企業主導型保育施設で「トラブルが多発」すると私が予想する理由

連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第4回)
保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志

「待機児童解消」が優先されるがあまり、全国各地の行政は「保育施設を建てる」ことを最優先にしていますが。そのために、「保育園の質」が置き去りにされています。中でも、「企業主導型保育施設」については、行政の人手不足から、保育の安全性を担保するはずの「監査」が徹底されていません。その実態を見ていきましょう。

姫路市の保育園で「不正運営」が発覚!

2017年、姫路市にある「わんずまざー保育園」で問題が発覚しました。スプーン1杯分の給食しか出ない、定員以上の園児を受け入れている、職員人数不足などの不正運営が次々に発覚しました。

 同園は2015年に「認可外の保育施設」から「地方裁量型認定こども園」に移行し、その移行認可も施設監査も姫路市が担当しています。内閣府や厚生労働省によりますと、地方裁量型認定こども園は「認可外保育施設」として監査するよう求めており、年1回以上行うのが原則とされています。

 しかしながら、姫路市は「2015年に監査をしたかったが、他の福祉施設の監査もあり、人の余裕がなかった」と釈明しております。さらに2016年1月、「園児が多すぎるような気がします」という利用者からの情報が寄せられ、「定員外園児の存在」が疑われた際にも、姫路市は園長を呼び出して事情を聞きましたが、園長が否定したため、抜き打ちの特別監査などには踏み込みませんでした。

事件後、この保育園は全国初の認定取り消しを受け、廃園になっていますが、2019年1月、元園長が不適切保育による詐欺容疑で逮捕され、現在も捜査は続いています。

行政は保育施設の建設を優先し、質は二の次

姫路市の事例でもおわかりのように「待機児童解消」の御旗の下、全国各地の行政は「まずは保育施設を建てる」ことを最優先にしています。そのためには手段を選ばないといった状況です。

しかし、姫路市の事例のように自分たちの自治体で認定しておきながら、運営が始まってからの状態はひどいものです。「行政側の人数不足を理由に監査は実施しない」「利用者からの告発があっても現場すら見に行かない」といった状況が見られます。理由は行政側の人員不足。でも、外部委託などもしない。それが日本全国で展開されている保育園整備の実態です。

行政には「安全の専門家はいない」

ここで問題になるのが、「行政に安全の専門家はいるのか?」ということです。

また、国も地方自治体も一生懸命になって「第三者評価」を推進していますが、「第三者評価者に安全の専門家はいるのでしょうか?」

どちらの答えも「NO」です。

不適切保育が実行されている保育園を事前に見抜くためには、不適切保育が行われた園のトラブル事案を実際に見て、監査するという経験が必要不可欠なのです。年がら年中、いろいろな部署を転勤してまわる行政マンでは無理ですし、第三者評価機関も、トラブル事案をそんなにたくさん監査することもないので、どうしても経験は不足しがちです。

仮に行政が年に1回、定期監査をすべての保育園に実施したとしても、「法律で定められている基準に違反しているか、していないか」だけを確認するにとどまるでしょう。保育園の安全面に関する監査は専門チームを編成して、3年に1度程度でかまわないので、定期監査と別の形で実施しなければ、安全性を確保できないというのが私の実感です。

保育の質の議論は量が満たされてから

保育の質の議論をしばしばマスコミが取り上げますが、保育の質の管理は行政の責任です。しかし、そもそも現在の保育環境で、質の議論をするのは、早すぎるのです。

一般に、どのようなものでも、質が向上するのは、量が十分に供給された後です。

つまり、

  • 供給量が需要量を上回る。
  • 需要者に選ばれなかった供給者が淘汰される。
  • 供給者は需要者に選ばれるよう努力し、コストの低下、質の向上が達成される。

という流れです。

これを保育業界にあてはめますと、

  • 保育施設で預かることができる園児の数が預けたい園児の数を上回る(保育施設に預かれる園児の空き枠ができる)。
  • 園児確保ができない園が閉園し始める。
  • 保育園が生き残ろうと保育の質の向上に真剣に取り組み始める。

という流れで質が向上していくのです。

保育業界の現状では、運営者も保育現場で働く職員にも選択の余地はありません。待機児童解消のために設置しなければならない行政は「来るもの拒まず」でなければならないのでしょう。保育の質の向上は、子どもの数が減少し、保育園が閉園し始めてから進むのが自然なのです。

「企業主導型保育施設」はトラブルが多発?

2019年10月から始まる「幼児教育・保育の無償化」を控えて、各地では保育施設の設置に拍車がかかっています。そのような状況下で待機児童解消の救世主として現れたのが「企業主導型保育施設」で、安倍内閣でも力を入れて推進しています。

企業主導型保育施設は、認可の保育施設にくらべて、保育士の配置基準もゆるやかなので、数を増やすのにも手間がかかりません。公益財団法人児童育成協会のサイトによりますと、「企業主導型保育事業の助成施設に対しては、原則として全助成施設に対して年1回立入調査による指導・監査を実施することとしています。なお、立入調査による指導・監査業務の実施主体は公益財団法人児童育成協会ですが、業務の一部を(株式会社パソナ)に業務委託して実施することとしています」(http://www.kigyounaihoiku.jp/info/20170429-01)とされています。

企業主導型保育施設に対して行われる監査は、設置基準が認可施設に対してゆるい分、厳しく行われなければならないと考えるのが普通ですが、企業主導型保育施設が急増しているだけでなく、民間に業務委託していることもあり、おそらく認可施設に対して各自治体が行う監査よりもゆるくなると思います。企業主導型保育施設のトラブルはすでにマスメディアを賑わし初めています。

そうなると、企業主導型保育施設が増えれば増えるほど、「わんずまざー保育園」で見られたような「不適切保育」が多くなると予想されます。企業主導型保育施設を利用する方々は、十二分に施設を検討してから預けることをお勧めいたします。