保育士は転職する人が多いといいますが、どんな体験をしているのでしょうか?今回お話を伺ったのは、三原勇気さん。公立保育園と私立保育園の勤務を経て、起業。親子向けのイベントや保育士研修などを行っています。保育士資格、幼稚園教諭一種免許状などをお持ちです。(ライター・松原夏穂)
9歳違いの弟の誕生で、保育士を志す
幼少時から年下の子どもと遊ぶことが好きだった三原さん。両親に「弟か妹がほしい!」と伝えたところ、小学校3年生のときに9歳離れた弟が誕生。そのときの感動を今でも覚えているそうです。
そして「子どもと関わることを仕事にしていきたい!」と、小学生のときに保育士を目指しました。
また、子どもの頃から踊ることが大好き。
子どもが好き、ダンスが好き。この2つが、三原さんの進路に大きな影響を与えます。
保育士を目指し大学に進学
保育士を目指し、地元徳島県の四年制大学児童学科に進学。身体で表現する楽しさを研究する「身体表現ゼミ」に入り、本格的にダンスに関わります。地元のイベントやワークショップに参加。ダンスは言語や年齢に関係なく楽しめることに気付き、保育にダンスを取り入れていきたいと考えるように。
一方、アルバイトやボランティアで、保育園や学童保育、知的障害児入所施設、児童相談所などで子どもに関わっていきました。
生まれ育った大好きな地元で就職するつもりでいた三原さん。しかし4年生のあるとき「自分の視野を広げたい。新しい環境でチャレンジしてみたい。」と思いました。
特に、ダンスを保育に取り入れたいけれど、具体的に何をしたらいいかわからない。人だけでなく情報も集まっている東京へ行けば、その答えが見つかるかもしれない。こうして、東京での就職を考えるようになりました。
大学では公立保育園の試験対策が実施されていました。そこで、東京のある区に先輩たちが保育士として就職したことを知ります。その区では、夜間保育や病児保育など最先端の保育を取り入れていることや、保育園の数が多く新卒採用も多いことを知りました。また、試験は、筆記より実技を重視。こういったことから、受験を決意して無事合格。
公立保育園の試験内容は、自治体によって異なります。こういった情報収集をするのは大切ですね。
さらに、合格後に借り上げ社宅制度があったことを知りました。卒業後、上京して1人暮らしをする三原さんにとって非常にありがたい制度でした。
上京 公立保育園に2年間勤務
2015年(平成27年)4月、新卒で東京都の区立保育園に就職。「大変だったことと、良かったことは?」と三原さんにたずねると、
ダンスやリトミックを保育に取り入れて子ども達と楽しむ中で、運動能力や表現力・他者とのつながりに結びついていくことを実感しました。
そんなとき、ある2歳児のママとの出会いがありました。核家族で頼れる人がおらず、仕事に家事、育児に1人で奮闘。子どもは自我が目覚めるころで、ママは不安と疲れの日々。
その姿を見て、「子どもだけでなく親御さんも楽しめるダンスがあれば、親子のふれあいやスキンシップができるのではないか?」と思いました。そんなときに生まれたものが、大学時代から考えていた、ダンスを保育に取り入れる形が具体化した「ぎゅぎゅっとダンス」でした。
これは、子ども大人ももやさしく自分を抱きしめる自己受容「ぎゅぎゅっとハッピー」という考え方を、ダンスに取り入れたもの。三原さんの全ての活動の基盤となっています。
「ぎゅぎゅっとダンス」で子育て支援をしていきたいけれど、公立保育園では副業は禁止。
悩んだ末に、次へのステップと考え、2年間勤務した後、2017(平成29)年3月に同僚や保護者の方に惜しまれながら退職。
転職、私立保育園に2年間勤務
2017年(平成29年)4月、私立認可保育園に就職しました。
公立保育園に在職中、ある私立保育園理事長主宰の手遊び・歌遊びイベントに参加。その中で、理事長から「あなたの夢は何ですか?」と聞かれ、「ダンスを広めることです」と答えて、皆の前で踊った三原さん。ダンスは好評で、理事長から「私の園で働きませんか? 応援しますよ」と言われて転職を決意。
転職後は、新規保育園のオープニングスタッフとして勤務。園の目標は決まっていましたが、年間スケジュールなどは、現場いる三原さんたちが考えました。。ゼロから立ち上げることは大変でしたが、「子ども達により良い保育を考える、ワクワク感が勝っていました」とのこと。
保育以外には、系列園で土曜日の親子イベントを開催したり、自治体のイベントに招待されたりと、活動の幅をどんどん広げていきました。
ここでの勤務も良かったことばかり。でも、「ぎゅぎゅっとダンス」をもっと広げて行きたい、保育の引き出しを増やしたいと考え、2年間勤務して退職しました。
との思いから、次のステップに進んだのです。
個人事業主、そして会社設立へ
2019年(平成31年)4月、個人事業主になり「ぎゅぎゅっとハッピー」の活動を開始しました。
しかし、当初は月1回程度のイベントがあるくらいで、生計が立てられませんでした。
生活の糧に選んだのは、ベビーシッター。これまで勤務していた保育園は、子どもにとって外の世界。家庭に入って親子のありのままの姿を見て、悩みなどを知りたいと思ったのです。
ベビーシッターの仕事は責任重大でしたが、子どものありのままの姿が見え、親子の悩みも感じました。夕方、保育園から帰って親子共々疲れている状態の中、どのようなサポートをしたら喜ばれるのか、分かってきたのもこの経験から。これが、一般家庭向けオンラインサービスへと、つながります。
ベビーシッターの仕事の他に、家具屋やホテル、遊園地、居酒屋などで単発のアルバイトも始めた三原さん。大学時代のアルバイトを含め、これまでは子どもに関わる職種ばかりだったので、他の世界を知る貴重な体験となりました。お金をもらうありがたさ、お金が回る仕組み、雇用体系など、事業をしていく上で大切なことを学びました。
そのうちに、週1回の保育園でのダンスや講演、研修など仕事が徐々に増えていきました。
仕事の依頼が増えてくると、個人より企業として発信した方がいいのではと考えるように。「1つの企業で研修をすれば、そこで働く従業員とつながれる。1つの発信が100に広がる」。そう考えて2021(令和3)年、株式会社ぎゅぎゅっとハッピーを設立しました。
今後の抱負
三原さんに今後の抱負を語っていただきました。
最近は、飲食店の管理職向けの研修も行っています。保育の世界で学んだことは、他の業種にも活かせると感じています。ハッピーな循環を作れるようにこれからも、発信を続けていきたいです。
転職を考えている保育士にはこんなメッセージがあります。
様々な現場で経験を積むことは、保育の引き出しを増やすことにもつながります。転職の機会をご自身のキャリアや保育観と向き合う期間ととらえて、進んでいただけたらと思います。
保育以外の仕事を平行している保育士へのメッセージもあります。
仕事の切り替えは大変かと思いますが、相互で活かせる部分がきっとあります。
男性保育士へのメッセージもあります。
おわりに
取材日は4月1日。辞令を交付され、保育士として第1歩を踏み出したことを思い出してもらいながら、終始笑顔で話していただきました。「ぎゅぎゅっとダンス」が日本全国に広まっていくのが、楽しみですね。
(参考)三原さんが代表を務める、株式会社ぎゅぎゅっとハッピーのwebサイト