他業種から保育士、そして保育・子育てプロデューサーへ~保育士の転職体験

他業種から保育士、そして保育・子育てプロデューサーへ~保育士の転職体験

保育士は転職する人が多いといますが、どんな体験をしているのでしょうか? 今回お話を伺ったのは、ゆきの直子さん。他業種で働いた後、保育士として14年勤務。その経験を活かし、現在は保育・子育てプロデューサーとして活動中。保育士資格をお持ちです。(ライター・松原夏穂)

教員を目指して大学進学したけれど

ゆきの直子さん

ゆきの直子さん

両親や親戚に教員が多いゆきのさん。その影響を受け、自然と教員の道を考えました。高校時代の地理歴史の教員に憧れ、社会科教員を目指し、大学は文学部史学科へ進学。教員採用試験は受験したものの、合格せず。

幸い、アルバイト先の知人の紹介で、卒業後は洋菓子販売店に就職しました。

教員の代わりに保育士を目指す

販売員の仕事を始めたものの、この仕事をずっと続けるのか、迷いが出てきたゆきのさん。この頃、近所の幼児を預かる機会がありました。

一緒に遊ぶのが楽しくて。小さい子どもと接すること、好きかも

その経験と、「教員の代わり」という思いで、働きながら保育士資格の勉強を始めました。

そしてなんと、ほぼ独学で合格。

洋菓子店は1年で退職。保育士資格を取得したときは、派遣社員としてIT企業の事務職に就いていました。

「事務以外にHPの修正もして、楽しかったです。その後、起業してブログなどを書くことが苦にならないのも、このときのお陰。人生に無駄なことはないですね」と、懐かしそうに当時を振り返ります。

障害児施設に産休代理として勤務

楽しかったIT企業の仕事でしたが、保育士資格を取得したこともあり、次へのステップのため退職を決意。

知的障害児通園施設の産休代理の職員の募集を見つけ、そこで働き始めました。施設には1~6歳(年長児)の子どもが通園していました。

これまで大人だけの世界で仕事をしていたので、子どもとの関わりは戸惑うことばかりでした。自分の意見を伝えても、子ども達は全く受け入れない。それでも一緒に働く保育士は親切な人が多く、ゆっくり学んでいこうと思いました。

印象的だったのは統合保育※を行っていたこと。通常、子どもの人数は、「障害児<健常児」ですが、ここでは「障害児>健常児」のいわば逆統合保育。さまざまな子ども達の成長に関わることは、大きな学びになりました。

※統合保育 障害児を健常児と一緒に保育すること。健常児は幼児のころから障害児と接することで自然に理解を深めていく。障害児は健常児から刺激を受けて成長し、社会参加の土台となるなど、大きな意義を持っている。

こうして、1年2か月の産休代理期間が終了。次の仕事先を検討していると、同じ法人が運営する乳児保育園への勤務を勧められました。

乳児保育園に14年間勤務

悩みながらの3年間

乳児保育園に正規職員として勤務したゆきのさん。最初の3年間は、「暗黒時代」と振り返るほど大変だったそうです。

というのも、1年目の睡眠は3~4時間で、21:00まで残業。さらに持ち帰り仕事もありました。早番のときは朝5:00に自宅を出発。これでは体力が続きません。

そして、大変だと感じた、もう一つの理由を語ります。

自分は子どもが好きだと思っていたけど、そんなに好きでないことに気づきました。子どもと遊ぶのが得意な同僚、子どもを急かさず『待てる』同僚を見て、私はそこまでできないと感じました

悩みに向き合い解決することで、保育が楽しく

仕事に悩みが出てきたら、辞めるのも選択肢の一つです。しかし、ゆきのさんは悩みを解決するには、どうしたらよいか考えました。

慣れてきた4年目に、主任保育士と書類作成に関わることに。その際、保育についての疑問や意見を伝えました。

同期は2か月で辞めました。子どもへの思いはあったのに、残念でした。また、1年目は子どもの大ケガが目立ちました。保育士が疲れているので、目が行き届かないのです。仕事量が減り、楽しく働ける職場なら長続きするのでは、と長い間思っていたことを伝えました

その結果、持ち帰り仕事がゼロになり、2~3年以内に辞める保育士が減りました。

同時に、その頃、「私は子どもを、『見る』ことが得意なことに気が付きました」といいます。

子どもの言動に注視すると、気持ちが分かるというのです。対して、それを伝えると、子どもに寄り添った行動ができる保育士がいることにも気付きました。得意分野は人それぞれ。「私は私のままでいい」。そう考えられるようになりました。

それからは、保育の仕事が本当に楽しくなりました。

これを機に、自分は子どもと保育士が、楽しそうにしているのを見ているのが好きで、それをサポートするために働きたいのだと、感じるようになりました。

その後、主任を3年経験、2013年に長男を2016年に次男を出産し、母になっても仕事を続けました。気が付けば勤続14年。500人近い子どもや保護者と関わっていました。

突然の閉園、進路の変更を余儀なくされる

2017年3月、乳児保育園の突然の閉園。仕事や息子たちの保育園のことで、混乱状態に。

市役所に相談すると、「息子さんたちが通園を続けられるように、今すぐ別の保育園で働いてください」とのこと。しかし、次男は当時4か月。フルタイムどころか、パートで働くのも難しい状態。

今の自分に何ができるか? 必死に考えたゆきのさん。思い出したのが、主任として保護者会の司会をしながら、育児のミニ講座を開催したこと。話を聞く前は疲れた顔をしていたママが、終わった後は笑顔になっていたのです。

子育て講座を開いて、ママ達を元気にしたい

そう思い、保育現場には戻らず、起業の道を選びました。

「閉園していなかったら、保育士を続けていましたか?」と筆者が質問すると、「続けていたと思います。辞める理由もないし、保育への情熱はまだあったから」とキッパリ。

起業、保育・子育てプロデューサーへ

2017年6月、閉園からわずか3か月後に「ハッピー子育てplus」という、サロンを立ち上げました。保育士と自分の子育ての経験を活かし、個別子育て相談や子育て講座を開催。多くのママに喜んでもらいました。

2018年には知識と活動の幅を深めるため、コーチングも学びインストラクターに。

コーチングを学んでからは、保育士同士の人間関係を大事にするためコミュニケーション研修にも力を入れました。

企業主導型保育園のコンサル(スーパーバイザー)も経験。職員の採用や開園後の運営のアドバイス、子どもを伸ばすオリジナルプログラムの作成。保育士向け園内研修の実施などに関わりました(コロナ禍で休止中)。

保育現場からは離れたけれど、今でも子どもの幸せを願っています。そのためには、保育士とママが自分らしい幸せを得ることが大切。そこに導くのが私の役目です

今後の展望

ゆきのさんに、今後の展望を伺いました。

これからも保育士とママが幸せになれるように、支援を続けたいです。
保育専門学校や短大の幼児教育科など、保育士を育てる現場に関わりたいだけでなく、所属しているコーチングの協会でも、保育士の研修を本格化していきたいです

メッセージ

様々な立場の保育士に向けて、ゆきのさんからメッセージをいただきました。

他業種から保育の世界に入った保育士へ

他業種(前職)との繋がりを、切らないでください。私は保育の世界に入り、社会から切り離されていく恐怖を感じ、他業種の友達との付き合いを、大切にしてきました。そうすることで、自分の立ち位置や価値観を忘れないし、おかしいと感じたら、保育園に待遇改善を伝えてみようなどと考えられます

転職を考えている保育士へ

保育士を辞めたい方、安心して辞めてください(笑)。皆さん気づいていないかもしれませんが、高度なスキルを持っています。特に対人コミュニケーション。毎日子どもや保護者、同僚といろいろな人と関わっているので。他にも行事を作り上げる企画力、指導力、指導案を書くPDCAサイクルも持っています。もちろん、手先も器用。自信を持ってください

現場で頑張る保育士へ

保育士は、パーフェクトであろうとする人が多い気がするけど、専門分野を持つのも良いと思います。保育計画を立てたい人、製作をしたい人、運動が好きな人のように。そうすることで子どもにも、パーフェクトを求めなくなるのではないでしょうか

ゆきのさん、貴重なお話ありがとうございます。他業種から保育の世界に入ったからこそ見える視点は、多角的で鋭いものでした。関西地方を中心に活動しているゆきのさんですが、オンラインの講座にも力を入れているので、遠方の方も受講できます。
ゆきのさんのブログ、ゆきのさんが所属している、子育てコーチング協会