連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第2回)
(保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志)
第2回目のテーマは、「保育園の安全はどこを見ればわかるのか?」です。まずは、結論から申し上げましょう。それは、園長です。みなさんのお子さんを預けている園長先生が安全面について意識が低ければ、現場の先生方に安全についての意識が高くなる訳はありませんし、興味がなければ、安全についての興味がわく訳はありません。だから、園長先生の安全に対する意識と興味を観察すれば、おのずと保育園の安全レベルは見えてくるわけです。
安全は「モノ」で測れない
園児募集をしている保育園のHPなどで、施設紹介として「園の安全面」を紹介しているものを目にすることがあります。そこで、安全対策として「モノ」を前面に押し出して安全面をPRしている園は、「安全レベルはゼロ」だと判断していただいていいと思います。なぜなら、モノだけでは安全に寄与しないからです。実際、園児管理システムを導入している保育園で、園児1人を園舎に取り残し、鍵はすべて施錠し、園長も職員も全員帰ったという事故も発生しています。この事故は、園児が園舎の2階の廊下の窓を泣きながら叩き、近所の人が発見し、消防署に救助されました。
この事故の教訓は、モノはお金を出してそろえたけれども、それを安全面でどう活かすか、どのようにすれば活かすことができるのか、という教育を現場の「ヒト(職員)」には施していなかった。ということが原因です。ハード面でいくら安全性を高めてもソフト面が追いついていなければ、事例のように宝の持ち腐れになります。安全とは、どこまで行っても、ヒトなのです。安全に配慮することができる能力を持ったヒトがいて、それをモノが補完するというのが理想的なカタチだと私は考えます。
特に、「ヒト」に最も大きな影響を与えるのが「園長」の存在です。「組織はリーダーの能力を超えない」という言葉はヤクルトスワローズを常勝軍団に変化させ、阪神タイガース、楽天イーグルスの監督を務めた野村克也さんの言葉です。この言葉が表すように、安全面でもそれは変わりありません。
みなさんの園の園長先生はどのタイプ?
さて、園長先生に話を戻します。一口に園長先生と申し上げてもいくつかのタイプに分けることができます。この分類を知っていると、園の特徴を見分けるのにも役立つと思います。ちなみにこの分類は一般的なものではなく、私が会ってきた日本中の園長先生を個人的に分類したものです。ただ、これまでの私のキャリアでお会いしてきた園長先生は、2万人くらいはいると思いますので、それなりの信憑性はあると思います。
今回は4つのタイプに分けてみましょう。
まず、「世襲型」で、親や親戚が保育園や幼稚園をやっていたから継いだというタイプですが、大きく分けて2タイプあるので、ここでは便宜的に「Aタイプ」「Bタイプ」としておきましょう。次に「プロパー型」で、一般保育士から始め、園長に起用された、というタイプです。最後に「雇われ型」で、雇われ社長や雇われ店長と同様に、オーナーから雇われて、園の管理を任されているというマネージャータイプです。
それぞれに詳しい説明を加えてまいります。
世襲型Aタイプは、自己研鑽位励んでいる
世襲型Aタイプは先代から帝王学を叩き込まれ、「福祉とはこうあるべきだ」という理想やビジョンを抱き、自己研鑽や情報収集、勉強にも抜かりがない方々です。先代から受け継いだものの良いところは残し、自分なりの考えを加え、より園を発展させようという意欲にあふれています。
世襲型Bタイプは、保育園にいないことが多い
世襲型Bタイプは、別名、「極楽トンボ」タイプ。このタイプの園長は、園にいないことが多く、保育について保護者が質問しても、トンチンカンな答えか、自分の考えを押し付けるだけで終わってしまいます。保育団体で知り合った仲良し園長と飲み歩くのが主な仕事なので、保育士も辟易としているか、園長はいないことを前提に保育しています。このタイプの園長が意外と日本中には一定数いて、さまざまな問題を起こしています。だから、「保育は世襲だから悪い」という意見は、一面的であり、世襲型Aであれば、何も問題はないのです。
プロパー型は、保育経験はあるが、労使等でトラブルも
プロパー型です。このタイプは新人保育士からの叩き上げなので、保育に関してはプロフェッショナルです。保護者の不安や質問にも自分の経験を元に話すこともできます。保育に関しては申し分ないでしょう。しかしながら、このタイプの弱点は、保育以外にあります。たとえば、経理、労務、など保育以外の専門分野が脆弱な方も散見されます。つまり、このタイプの園長は、自分の経験に裏打ちされている分、保育に柔軟性がなかったり(昔の保育に対する考えのままで思考停止している)、お金や労使関係のトラブルを招いたりする傾向があります。
雇われ型は、コロコロ変わるので信用できない
雇われ型です。このタイプは、幅広く運営している社会福祉法人や株式会社が運営する園長に多く見受けられます。園長個人には問題なくても、法人の方針で、ちょっとしたトラブルが園で発生するたびに、再発防止策として、園長を更迭いたします。という対応をとるとことが少なくありません。したがって、保護者にしてみれば、園長がコロコロ代わるので、信用するとかしないとかの前に、どのようなタイプの人かも分からないという状況が続くということになるのです。
園長が安全に対する意識を高く持ち続けているか
第1回目でもお話いたしましたが、安全が保障されている保育園など存在しません。安全な状態は人が努力して作り上げるものです。積み上げていくものです。みなさまの子どもを預けている園の園長が、上記4タイプのどれでもかまわないのです。園長自身が安全に対する意識を高く持ち、興味や関心を安全にも向け、最新の事故情報を収集し、職員を教育し、園運営に活かす努力をしているかが問題なのです。
ただ、私の経験に基づく統計では、「世襲型Aタイプの園長が管理する園がもっとも安全レベルが高く、世襲型Bタイプの園長が管理する園の安全レベルが低い傾向にある」ということです。このひとつの基準をみなさまの園選びに活かしていただければ幸いです。