連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第9回)
保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志
保育園児2人が亡くなった、大津の交通事故が発生して以降、全国各地で保育園時が巻き込まれる交通事故が多発しています。そのため保護者からは「散歩に行かないで欲しい」という要望も上がってきています。保育園児に散歩を続けるのであれば、保育園側もそれにきっちりと答える必要があります。
散歩をする園児の交通事故が相次ぐ
保育園児と引率の保育士あわせて16人の列に車が突っ込んだ「大津市の交通事故」から1ヶ月が経ちました。
今回の事件は、保育園児の列に突っ込んだ車は直進していた車で、対向車が無理に右折しようとしたことが原因となり、保育園児の列に突っ込んでしまったという経緯があります。直進していた運転手は警察の調べで容疑を認めていましたが、大津地方検察庁は「法定速度以下で走行し、前方不注視もなく、青色信号に従い直進しようとしていて、刑事責任を問える過失は認めがたい」として不起訴処分になりました。
右折車と直進車の交差点内の事故の場合、通常、過失割合は「右折車8」対「直進車2」から話し合いが始められます。大きな交通違反がなければ、今回の不起訴処分は妥当と言えますが、事故の被害者側関係者は到底納得できない結論で、受け止められないのではないでしょうか。
この5月8日以降も、5月15日には千葉県市原市で公園に遊びに来ていて、砂場で遊んでいた保育園児と保育士に65歳男性が運転する乗用車が突っ込み、女性保育士が保育園児らを守ろうとして、右足を骨折すると重傷を負いました。この事故では保育園児にケガがなかったことが不幸中の幸いだったと思います。
さらに事故は続きます。6月13日、兵庫県西宮市で保育園児17人を保育士2人が引率し、近くの公園に行くために歩道を歩いていたところ、69歳女性が運転する乗用車が保育園児の列に突っ込み、6歳女児が右肩骨折の重傷、5歳女児が両膝に軽いケガを負いました。
以上のように保育園児と車の事故がこのところ立て続けに発生しています。市原市の件も、西宮市の件も、運良く保育園児らに死者は出ませんでしたが、大津の事故よりも被害が大きくても不思議ではありませんでした。そのような環境下にあって、保育園は保育園児を散歩させる必要はあるのでしょうか。
園児の散歩は続けるべきか、やめるべきか?
こういう事故が立て続けに発生しているときだからこそ、保護者のみなさんから、ぜひ、保育園に聞いて欲しいことがあります。それは、散歩に関する安全対策ではなく、その根本的な疑問である、「保育の中に散歩が必要なのか」です。
散歩だけに限らず、すべての保育活動には「意味」「目的」「効果」の3つは必ずあると私は考えています。私は保育内容については専門家ではないのですが、最低その3つはあることくらいは推測がつきます。
「意味」とは、なぜその保育活動を行うのか。
「目的」とは、何のためにその保育活動をするのか。
「効果」とは、その保育内容を行った結果、保育園児にどのような効果が現れるのか。
これを散歩に置き換えると、保育園児を園外にわざわざ連れ出し、交通事故に遭うリスクを負ってまで散歩させているからには、意味があるはずです。これと同様に園児を散歩させながら、どのようなことを保育園児に気づかせたり、体験させたりするのか、というような目的を持って職員は散歩させているはずです。そして、その散歩をさせた結果、保育園児の感情や頭脳や体には必ずプラスの効果が現れてくるのでしょう。
ここで、お願いがあります。
保護者のみなさんは、散歩に関する意味、目的、効果をみなさんが自分の子どもを預けている園の担任に質問してください。もし、それに答えられなければ、それは、交通事故というリスクを負った単なる保育園児の集団徘徊に過ぎないでしょう。
現場の職員は、今こそ、散歩の意味を再確認し、目的や効果が保育園児に届くような保育を実施しなければなりません。そして、そのことを保護者の方々に積極的に説明することによって、安心していただくとともに、理解を求めなければならないと思います。
今、私どもの会社には、全国の保育園の先生方から、「保護者から散歩は当分やめて欲しいという要望が来ている」「保護者から、うちの子だけ散歩に連れて行かないで欲しいと言われて困っている」という相談が毎日、寄せられています。保育園の先生方は、その対応に苦慮しています。
保護者からそのような要望・苦情が出ているということは、保育園側の保護者に対する説明が不足しているのだと思います。ぜひ、保育園の人たちは散歩の意味を再確認し、目的や効果はっきり説明して、保護者の方々を安心させて差し上げて欲しいと思います。
行政のミスが、交通事故の遠因では?
もちろん、意味、目的、効果の再確認だけではなく、その反対側にあるリスクへの対応もきちんとしなければなりません。
たとえば、冒頭に事例で出した市原市の事例ですが、この事故現場を上から取った写真や図がインターネットの中で見ることができるのですが、不思議なことに気づかされます。それは、砂場の位置です。車道に面したところに砂場があります。
通常、砂場で保育園児が遊ぶ場合、とっさに動けるような姿勢で遊ぶか、座り込んで遊ぶか、というと座り込んで遊ぶものでしょう。つまり、何かが起きたときには逃げ出しが遅れるような姿勢で遊ぶのが砂場なのです。それを車道に面したところに配置するのは、車が突っ込んでくるという事故を想定していないという証拠です。市原市の事故は、公園設計者のミスでもあるのです。
こういった目に見えないけれども、日常生活の中に潜んでいるリスクにまで気を配り、意識し、保育活動を行っていかなければならないのが、保育士という仕事です。西宮市の事例を見てもわかりますが、17人の5~6歳に対して、引率者2名という配置です。みなさんは、この配置について、多いと思いますか、少ないと思いますか。
実は、保育園によっては、「最近、自動車事故が多いから、いつもは2人の先生を引率でつけるけど、1人増やして散歩させましょう」という考えを持っています。しかし、行政から与えられた運営費で人員配置をすると、増やすことはできないのです。しかも、職員一人ひとりの給与水準は決して高くありません。
現在の日本の保育制度下においては、職員配置の基準は、「安全」を根拠としたものではありません。日本の保育が安全ではない原因は色々ありますが、そもそも職員配置という重要なレギュレーションに危険性が存在しています。保護者のみなさんが声をあげて、国に訴えなければ、保育現場の安全は向上しないのです。