連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第8回)
保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志
2019年5月に大津市で、保育園の園児が交通事故に巻き込まれて死亡するという大変、悲惨な事故が発生しました。大津市のような保育園児の交通事故に対して、保育園、保護者はどう備えるべきなのでしょうか。
大津市で保育園児の列に車
5月8日午前、大津市の交差点で、保育園児と引率の保育士あわせて16人の列に車が突っ込み、園児2人が死亡しました。警察によりますと、搬送され、重体だった2人の園児の意識は回復したということです。保育士2人も病院で手当を受けているようです。
警察や保育園によりますと、園児たちは保育士の引率でびわ湖に向かって散歩している途中で、現場で信号待ちをしていたということです。
また、警察によりますと、道路を直進していた軽乗用車が、交差点を右折しようとしていた乗用車と衝突し、はずみで園児の列に突っ込んだようです。
保育園でできる事前準備
まず確認したいのは、各種報道を分析する限り、この事故は避けることができない事故だったということです。交通事故リスクは、運転手側には対人対物事故を引き起こす可能性が常にあります。一方、歩行者には交通事故の被害者になる可能性が常にあります。そういったことを前提条件に人や車などは移動しています。だから、今回の園児の列に車が突っ込んでしまうような事故は特別な事故なのではなく、日常に潜むリスクが顕在化しただけのことなのです。
過去においても2006年9月25日、埼玉県川口市で保育園児や保育士など39人の列に対し、後ろから走ってきた乗用車が突っ込む事故が発生しています。この事故で園児4人が死亡、他の園児と引率の保育士あわせて17人が重軽傷を負っており、警察は車を運転していた38歳の男を業務上過失致死傷容疑で逮捕しました。この運転手は2007年3月16日に行われた判決公判で、懲役5年の実刑判決を言い渡されました。
このような事故に対して保育園ができる準備としては、散歩の道順、時刻、引率方法などを検討しておくことなどが考えられます。しかし、それ以上に重要なことは、引率者の危機意識を十分に引き上げておくことです。そもそも車が通るような道で園児を連れて散歩していることは危険をともなう行為であり、事故と隣り合わせだということを散歩のときには十分に注意を払うようにしておくことが重要です。
事故が起きたらどのように対応すべきか
保育園としては、事故対応には優先順位があります。保育園内で事故が発生した場合には、事故の中心から外側に向けて順々に対応していくことが肝心です。
大津市での事故のような場合、対応すべき優先順位は、
①事故の被害者とその家族
②事故の被害者以外の園児とその家族
③園に勤めている職員とその家族
④行政やマスコミなど
という順序になると考えられます。
この順序を間違って対応してしまうと、事故後の対応が後手に回ってしまったり、余計な不満や不安などが噴出してしまったりして、対応が手間取る可能性もあります。事故後の対応を間違うと事故以外でも傷つく人を増やしてしまうので、最大限の注意を払って行わなければなりません。
事故発生時に記者会見は必要か
基本的に社会福祉法人で発生した事故について記者会見は必要ないというのが、私どもの会社(株式会社アイギス)の考え方です。その理由としては、事故発生時の情報公開は利害関係者(ステークホルダー)を優先にすべきだからです。
一般企業に比べ、社会福祉法人の利害関係者は、直接会って話ができる距離にいます。特に保育園の場合は、毎日、利害関係者が園児を送り迎えしているわけですから、老人や障がい者の施設に比べると、距離は一段と近いというのが現状ではないでしょうか。だとしたら、その方々に事故やトラブルについての情報を直接お伝えするのが誠意なのではないでしょうか。
園内で発生した事故について、記者会見が先、保護者説明会が後になるような情報公開は園が望まない結果を招く可能性が高いと言えます。特に園が被害者になった場合は、警察に事故情報の公開を任せ、利害関係者対応を最優先に行うという役割分担で良いと思います。
保護者として事前に何を確認しておくべきか
では一方で、保護者として事前に何を確認しておくべきでしょうか。
福岡県内のある都市で行われた危機管理セミナーの内容で、研修講師が「プールなんて死亡事故の可能性があるのだから、園内でやる必要はない」という発言をした結果、その市内にある保育園のほとんどが園内でのプール活動をやめるという結果になったそうです。
それと同様に、散歩なんて事故の可能性があるのだから、やる必要がない。という発想になれば、保育園でできることがなくなってしまいます。給食やおやつには、誤嚥やアレルギー誤食事故の可能性があり、睡眠にはうつぶせ寝による死亡の可能性があります。
だからこそ、それぞれのリスクを認識し、危険な内容を具体的に把握し、それぞれのリスクに対して対策を講じているのかを確認しておく必要があるのではないでしょうか。そして、それらの対策を全職員が怠らずに現場で実行することができるのかも確認しておきたいものです。
今回の大津で起きた事故も2006年に川口市で起きた事故も、園に共通することは園庭がなかったということです。つまり、園外に園児を散歩で連れ出す必要性は、園庭がある園に比べて高かったということです。この傾向は首都圏では特に高くなると考えられますし、企業主導型保育施設や事業所内保育施設では、園庭がないことが当たり前なのではないでしょうか。
それぞれの園が安全に対して、どのような工夫をし、どのくらいの職員が、どの程度の意識で取り組んでいるのかということが重要なポイントなのではないでしょうか。今回の事件をきっかけに、園長や保育士に、園児の散歩について、以下のような質問をしてみるといいでしょう。
「園児の散歩の際に、保育士の人数配置はどうなっているのか」
「公園などから戻る際に、人数確認をしているか」
「公道を歩く際に、交通事故対策をしているか」(横断歩道で信号待ちのとき、どのような根拠でどのような場所で待っているのか)
「夏はどんな熱中症対策をしているか」
「散歩のコースが園で決められていると思いますが、急に園に事前連絡も入れずにコースを変更するようなことはあるのか」(実際にこのような園は比較的多く存在しています)
みなさんのお子様を預けている園から、良い答えが聞けることをお祈りしています。