皆さんの園では、子どもたちに、果物など(ゼリー、ヨーグルトなども含む)は最後に食べるよう指導していますか?それとも、どのタイミングで食べてもいいよと伝えていますか? 子どもにとって良かれと思っている指導でも、本当にその指導でいいの? と他の先生はモヤつくことも・・・今回は、はぁもにぃ保育園で実際にあった事例をもとに、食べることの原点について考えていきたいと思います。(はぁもにぃ保育園園長 山下真由美)
ある日の給食会議の中で出た質問
はぁもにぃ保育園では、給食の献立に果物をつけている日が多くあります。彩りや栄養素の観点、子どもたちが喜ぶからということで出している園も多いと思います。
その食べ方において、ある日A先生から質問がありました。
A先生
園長(筆者)
B先生
園長(筆者)
そもそも最後ではなく、途中で食べたい子もいるんじゃないですか?
B先生
C先生
A先生
どうやら、果物を最後に食べさせる、食べさせないという議論以前に、職員同士の食事に対する価値観の違いを話し合ったほうがよさそうに感じました。誰が正しいとか、間違っているとかではなく、はぁもにぃ保育園の理念や給食への在り方を考えていくためです。
意見が分かれた時こそ対話ができるチャンス
発言しやすいように職員全員を3~4人の小グループにわけて、給食担当者も看護師も事務の先生も参加。シャッフルして話し合いの時間をとりました。
上記の意見に加え、下記の意見やアイディアも出て、各クラスでの考え方や食べ方に違いがあることもわかりました。
- 果物はコース料理などでも最後に出てくるので、やはりマナーとしても最後に食べさせるべきだと思う
- どれから食べてもいいのなら、子どもは絶対果物から食べてしまうと思う
- 途中で口直ししたい時は大人でもあるし、なにから食べたいかは子どもが決めたらいいんじゃないかと思う
- 苦手なご飯やおかずを一口食べたら、果物も食べていいということにしていた
- 完食できることが大事だと思い、最初の配膳で量を調節していたので、小食の子でも果物まで食べらることができ、あまり問題は感じていなかった
- 幼児の子どもたちは箸を使っているけれど、スプーンやフォークを使ってもいいようにしたら、食が進んで、20分でも果物まで完食できるのではないか
- 楽しく食べてもらいたいし、そうでないと給食自体が嫌になってしまうと思う
- 子どもに無理をさせたり、食べたかった果物が食べられなくて残念な給食の時間にしたくない
- そもそも完食できない、食事量が少ない、残食があるというのは、午前中の活動量にも課題があるかもしれない。大人だってお腹がすいていなければ食べられない時もある
- 個人的には、好きなものから食べたらいいと思っているけれど、クラスの中で、果物は最後という雰囲気があって、自分もそのように指導していた
- 子どもに果物は最後と伝えていたが、実は自分自身は途中で食べたくなる時もあるので、子どもも、大人も自分の食べたい順番で食べたらいいと思う
- 私たちは、子どもたちに好きに食べてもらいたいけど、保護者から「また残したんですか?」とか言われると、困ってしまう
などの意見がでました。
まずは、沢山の意見を出してくれたことに感謝でした。なぜならば、皆が真剣に子どもたちのことを考えてくれているし、仲間を信じて自分の意見を伝えてくれたからです。
食事は個人の価値観が色濃くでる瞬間
保育者自身が育ってきた成育歴の中で、培ってきたあたりまえの食事の価値観(思い込みや信じている概念)は、それぞれの保育の中で当然出てきます。それは、保護者自身にもあるものです。
例えば、今回の話し合いの中で出てきた主たる意見は、
- 好きな順番で食べさせると、必ず果物から食べてしまって他のものを食べなくなる
- 果物はデザートなんだから最後に食べるべきだ(マナー違反だ)
- 果物から食べさせると完食できなくなる
というものでした。
でもそれは10人子どもがいたら10人とも必ずそうなるでしょうか?
上記の価値観を否定するものではありませんが、それが絶対だと思っていたら、それ以外の考え方ややり方を最初から排除したり、選択肢が狭くなったりするかもしれません。
職員会議では個々の保育者の価値観を否定せず、園としての方向性を合意形成していく場でもあります。
ひとつひとつの意見を丁寧にみていきながら、では、うちの園で大切にしている考え方や理念に沿っているものはどれか、を考えていきました。
話し合いの中では、「子どもたちの好きな順番で食べる」や「果物は最後でなくてもよい」という意見がどちらかというと多かったけれど、多数決で決めるのではなく、話し合いの中で合意点を見つけていくというプロセスと考えています。
共通している願い(思い)をみつけること
「果物を最後に食べさせるべきだ」という意見と、「別にどの順番から食べてもいいんじゃないか」という意見は表面的な内容は違っています。しかし、根本的な願い(思い)は一緒なのではないでしょうか?
たとえば、その共通している願いとして・・・
- 苦手なものも食べられるようになって好き嫌いがなくなってほしい
- バランスよく沢山たべて大きく成長してもらいたい
- 給食という「食べる」という体験が楽しいものであってもらいたい
というものが一緒でした。
「子どもたちが、保育園での給食を大好きになり、楽しい時間を過ごし、そして心も身体も成長してもらいたい」という願いさえ守ることができれば、果物が最後でも最初でもどちらでもいいのではないでしょうか?
広い視野と長期的な視点
食べることそのものが、子どもにとって苦痛になってしまう体験や、嫌だった記憶になってしまっては本末転倒です。保護者にも、保育者にしても、「沢山食べさせないと、病気になる」とか、「好き嫌いが多いと成長できない」など様々な不安があるかもしれません。
ただ、大人だって食べたい日もあればそうでない日もありますし、子どもの時には味覚が敏感で食べられなかったものが、大人になって食べられるものもあります。長期的な視点で考えると、今すぐに食べられることが大事ではないことに気づくかもしれません。
「大好きな先生がおいしそうに食べるから、私もちょっと食べてみようかな」という興味から行動できるかもしれません。食材の切り方や味付けの仕方の工夫、午前中の運動量を工夫するだけで食べるようになるかもしれません。
だから、果物を最初か最後に食べるかということは、部分的なことであり、そのことだけが、直接的に子どもの食事量や好き嫌い、成長に影響するわけではないという広い視野をもつことが大事です。
〜はぁもにぃ保育園での今回の給食会議の着地点〜
「果物は、その子が好きなタイミングで食べてもいいことにし、ご褒美や他のものを食べないと食べられないよという指導はしない。とにかく、給食は楽しく安心して食べることを第一目的とする」
(※これが良いとか悪いとかではなく、みんなが納得した結論)
もし、保護者からのご意見やご不安などがあって、担任の先生たちが困っている時には、いつでも園長、主任が保護者対応や面談をする、ということに決まったのでした。
最終的に決まったことに、園長が責任をとり安心して先生たちが決まったことを行動できるようにすることも、大事なことです。
保育者は皆、子どもたちの最善の利益を考え保育をしているはずなので、必ずその願い(思い)は一緒であることを信じ、意見の食い違いを恐れず対話していく場、お互いを尊重し、多様性を認め合えることが大事です。
そして、この記事を読んでいただいている皆さんの園ではいかがでしょうか?
改めて「食べる」ということは、何が一番大事なのかを考えるきっかけや参考になったら幸いです。
【山下真由美】 板橋区認可保育園・はぁもにぃ保育園園長 / 保育コミュニケーション協会 認定ファシリテーション講師 保育士の為の新人教育、メンタルケア、チームビルディング研修など講師としても活躍中 (イラスト はぁもにぃ保育園・栗林実花)
<編集協力・松原夏穂>