ベビーシッター16社(キッズライン含む)に東京都が立入検査した結果は?ベビーシッターの選び方も解説

ベビーシッター16社(キッズライン含む)に東京都が立入検査した結果は?ベビーシッターの選び方も解説

ベビーシッターは、多様で手軽な利用ができる、保護者の強い味方です。待機児童、病児・病後児保育、土日や祝日勤務時の対応として利用している人が多いのではないでしょうか。一方で、キッズラインの問題など、ベビーシッターにまつわるトラブルも目にします。東京都が大手ベビーシッター16社に指導検査をした結果ではなんと全社が改善に向けた指摘を受けました。あわせて、ベビーシッターを選び方や注意点も解説します。

ベビーシッターの利用が急増

ベビーシッターの利用が増えているがトラブルも散見される
ベビーシッターを利用する人が増えていますが、トラブルも散見されます

ベビーシッターは、コロナ禍による保育園の休園をきっかけに、利用者が急増しました。また、予約や支払いが簡潔なマッチング型シッター事業が一般化してきたほか、各自治体の利用補助制度の整備が本格化したため、利用者が増えています。

需要の高さや多くのメリットがある一方で、深刻な問題も上がっています。

大きく報じられたのが、20年4月、ベビーシッターマッチングアプリ大手「キッズライン」の元登録男性シッターによる、強制わいせつ容疑での逮捕についてです。

同事件は、19年11月にすでに一部SNS上で当該シッターについての疑惑が書き込まれていたものの、同社は公式HPに「お知らせ」として、

11/14(木)一部SNSにて、キッズライン利用者とシッターの間でトラブルがあった旨の情報があり、発覚時から情報収集に努めておりますが、現時点では、該当すると思われる事案の事実確認はできておりません(キッズラインのサイトより)

といった文面を掲載するにとどまりました。

にもかかわらず事件化したことで、同社には利用者を中心に批判の声が相次いだのです。

さらに20年6月にも、同社の別の男性シッターが強制わいせつ容疑で逮捕されましたが、保護者が在宅勤務中、隣室にて子どもへわいせつ行為に及んだという驚きの詳報もありました。

事件頻発の一因として考えられるのは、ベビーシッターの急増。

ベビーシッターは保育士のように法律的な資格を有しているわけではなく、事業所へのシッター登録にも保育士資格の有無等についての規定がない事業者がいるのも実態です。

数年前までは、誰かが質の担保をしているわけでも、どこかの機関が保証をしているわけでもない、いわば”無法地帯”といっても過言ではないほどでした。

東京都が大手16社に一斉指導検査

こうした背景からなのか、2020年10月と11月、東京都福祉保健局がほぼ一斉に大手事業者の指導検査が実施されました。

そこで保育園まるごとランキングでは、東京都福祉局の「社会福祉法人・施設・在宅サービス事業者に対する指導検査結果」の「認可外の居宅訪問型保育事業(いわゆるベビーシッター業)」のデータを元に、どんな指摘事項があったのかを調査してみました。

・指導検査実施事業者数 :16社
・指導検査を受けて、指摘があった:16社
・検査期間:2020年10月〜11月を対象に検査を受けたサービス

「保育士or看護師の資格を有する者が、配置されていない」と指摘を受けた会社は?

15社/16社中 特定非営利団体活動法人フローレンス/是正済
ベビーシッターのHAS(小学館集英社プロダクション)/是正中
ハニークローバー(株)/不明
アルファコーポレーション/是正済
ミラクス/是正中
キッズライン/是正済
明日香横浜本社/未是正
コンビスマイル/是正中
ポピンズシッター/是正中
ポピンズ/不明
シェヴ/是正中
ジャパンベビーシッターサービス/是正中
mor mor/是正中
ル・アンジェ/是正中
サンフラワー・A/是正中
※保育士or看護師の資格を有する者には、都道府県知事等が行う保育に従事する者に関する研修を修了した人も含みます

「調理、調乳に携わる職員の検便が実施されていない」と指摘を受けた会社は?

13社/16社中 特定非営利団体活動法人フローレンス/是正済
ハニークローバー/不明
アルファコーポレーション/是正済
ミラクス/是正済
キッズライン/是正済
明日香横浜本社/未是正
ポピンズシッター/是正済
ポピンズ/不明
シェヴ/是正済
ジャパンベビーシッターサービス/是正済
mor mor/是正済
CoMaMoRi(クールドロワ)/是正済
サンフラワー・A/是正済

「職員に対し定期的な講習受講の機会が与えられていない」と指摘を受けた会社は?

1社/16社中 ポピンズシッター/是正済

※2021年10月時点に調査。参考 東京都福祉局「社会福祉法人・施設・在宅サービス事業者に対する指導検査結果

「えっ、私が利用していた、あの大手も指摘を受けたの!」と驚く人は多いのではないでしょうか。

21年10月1日現在、東京都福祉保健局に届出のある事業者は140件、さらに個人での届出は2423件あるうちで、指導検査が入ったのはたったの16社。その少なさに驚くと同時に、16社全社に指摘があったことも見逃せません。問題となったキッズラインも指摘を受けています。

また、「保育士or看護師の資格を有する者、または都道府県知事等が行う保育に従事する者に関する研修を修了したものが、配置されていない」というのは、必要な資格を持っていない人がベビーシッターをしているということです。この最も重要といえる指摘事項については、ほぼ全社が守っていませんでした。子供の命を預かる責任の大きな仕事であるのに、ベビーシッター業界では法令遵守精神が低いことがよく分かリます。

ちなみに指導検査による指摘項目は、東京都福祉局の「法第6条の3第11項に規定する業務を目的とする施設(複数の保育に従事する者を雇用しているものに限る)の評価基準」によると、全24項目あります。なかには「保育に従事する者の人間性と専門性の向上」や「乳幼児の人権に対する十分な配慮」といった、たった1度の指導検査で測れるとは思えないような項目もあります。
参考:東京都「認可外保育施設に対する指導監督要綱(令和3年10月1日改正)

現在は保育士などの資格が必要

かつて厚生労働省は、事業者の指導監督基準の「職員の条件」を「基準なし」としていましたが、19年10月の改正後は、「保育士、看護師、または一定の研修を受講した者」となっています。「一定の研修」については「20時間程度の講義と1日以上の演習」というものです。

あわせて、15年6月に厚生労働省が、前年に埼玉県で起きたベビーシッターによる男児死体遺棄事件(「富士見市ベビーシッター事件」)をきっかけにシッターマッチングサイトのガイドラインを策定し、上記キッズラインの2事件でさらに改定され、21年3月時点では、マッチングサイト登録者に以下を求めています。

・各自治体への児童福祉法に基づく届出を証明する書類提出
・保育士または看護師等であることを証明する書類提出

こうして、事業者の質を担保しようと図っていることがうかがえます。

証明書が信用できない?

徐々に整備されてゆくさまがうかがえるシッター業界ですが、基準やガイドライン設定後の指導検査でほぼすべての事業者に指摘があったことに、基準やガイドラインの無意味さを感じざるを得ないのが現状です。

さらに、追い打ちをかけるような事件がありました。

自治体は、指導検査後、国が定めた「認可外保育施設指導監督基準」の項目をすべて満たしていた事業者に対し、「指導監督基準を満たす旨の証明書」を交付しています。

現在、東京都が証明書を発行されている事業者は以下の4社です。

・特定非営利団体活動法人フローレンス
・(有)クールドロワ
・(株)アルファコーポレーション
・キッズライン

※参照:東京都「居宅訪問型保育事業者一覧

ところが21年7月、上記の証明書があるキッズラインを利用した保護者が、自宅に設置したカメラが映したシッターの動画をSNS上にアップ。映像には、シッターが乳児を乗せたローチェアを激しく揺さぶる様子などが映されていました。

さらにこのシッターが、シッティング回数735回のベテランで、利用者が書き込む口コミ評価が5段階中4.97だったこことも発覚しました。

同年10月、動画が拡散されたことでキッズラインが公式HP上で声明を発表。それによると、「問題行動についてご指摘を受けた時点でシッターの方については退会いただいております」と、不適切な保育があったことを認めています。※キッズライン「お知らせ シッティング中に発生した問題行為への対応

これを踏まえると、上記証明証の信頼性が揺らがざるを得ません。

せめて、事前面接は実施を

以上のことから、利用者のベビーシッター選びがいかに困難を極めることかがわかります。

指導検査の結果や「指導監督基準を旨の証明書」、そして各シッターの口コミは最低限チェックすることはもちろんですが、それだけでは足りないことがキッズラインの各事件からわかります。

そこで、厚生労働省や各事業者も推奨している「事前面談」は、可能な限り実行したほうがいいでしょう。

事前面談では、ベビーシッターの身分証明書を提示してもらい、氏名を必ず確認した上で(会社所属ではないフリーランスシッターの場合、住所と連絡先も要確認)、社会性や人柄を見るだけではなく、保育に関する方針や心構えを積極的に聞き、信頼できる人間かを確認しましょう。

保育に関する研修を受けているか否かも、聞きたいところです。

その時点でも、そしてシッティング後でも、不満や疑問点が生じたら、すぐに事業者やマッチングサイトの運営者に相談をすることを進めます。

なかにはなかなか取り合ってくれない事業者もいます。そういった場合は、各自治体の保育担当部署や、消費生活センターに相談することも、念頭に置いておきましょう。
参考:厚生労働省「ベビーシッターなどを利用するときの留意点

かけがえのない、大切な命をあずける人物が、どんな人間なのか。

手軽さに身を委ねるあまり、事前面談をおろそかにしがちですが、最終的には自身の目を判断基準にすることが大切です。

【参考になる記事はこちら】ベビーシッターの逮捕を受けて、行政はどう動いた?安心・安全に利用するためのポイントも紹介