わがままな保育園園長を、なぜ保護者は“追い出す”ことができたのか? 実際にあった話をレポート

わがままな保育園園長を、なぜ保護者は“追い出す”ことができたのか? 実際にあった話をレポート

誰もいないブランコ
保育園の質は園長によるところが大きい

 わがままな園長に困った保護者たちが、運営会社や行政に働きかけて、最終的には園長を“追い出す”という、非常に珍しい事態が都内の保育園で起こりました。昨今の保育園問題といえば、「待機児童」ばかりが注目されますが、本当に問題なのは、中には「質のが類保育園がある」ということです。上場企業が運営する都内の認可保育園を舞台に起こった、保護者たちによる安心な保育現場実現への苦労を、当編集部がレポートします。

園長交代で、わがままな園長が就任

 都内にある、大手保育園グループが運営するX認可保育園。運営会社は上場もしていて、最近は急速に保育園数を増やしているだけに、保育園に子供を預けたことがある保護者なら誰もが知っているグループです。このX認可保育園にはどんな問題があり、最終的に園長が保育園を去るまでに、どのような経過を辿ったのでしょうか。

 ことの発端は、開園2年目、保護者から信頼の厚かった前園長が他園へ異動し、新たな園長Zさんが着任したことでした。 「前園長は臨機応変な方で、保護者の要望にできるかぎり応えてくれようとしていました。たとえば、内定説明会で『仕事の都合でどうしても親が迎えに行けない場合、家も近いし、成人前の兄弟にお迎えを頼むかもしれない。それがむりなら、この園は諦める』と伝えると、『私たちがフォローしますから、大丈夫です』と言ってくださり、通園を決め、難なく送迎していました」(保護者のAさん)。

 ところが、Z園長が着任すると、前園長との約束は簡単に破られました。Z園長は、「それ(成人前の兄弟によるお迎え)はできません。決まりです」の一点張り。一方的に言われ、話し合うこともできなかったそうです。しかしAさんは「前園長がむりを聞いてくれたのだ。しかたがない」と、やりきれぬ思いを飲み込むことにしました。

運動会の開催時間を、数週間前に突然変更

 それから数ヶ月後、近隣の小学校で行われる運動会開催日の数週間前になり、突然の時間変更が知らされました。「午前中開催」から「午後開催」に変更されたと、一方的に告げられました。 「午後から予定を入れていたので、ちょっと納得がいかなかったので園長に物申しに行くと、『遊びに行く予定でも入れていたんですか? そんなに言うなら参加しないんですね』と、強い口調で言われました。

「他の保護者も何人か、そうした嫌な対応をされたようです」(保護者のBさん)。

 変更理由は、「校庭を借りる小学校との、連絡の行き違いがあったため」とし、自分にはあまり非があるような口ぶりだったそうです。

 さらに数ヶ月後に近隣の小学校で行われた発表会では、こんなプリントがまたもや一方的に配られました。

「行事終了後は、校庭で遊ばないでください。小学校から苦情が入っています。また、ベビーカー使用禁止とも言われています」

 このプリントについては、多くの人が疑問に思いました。

「乳児が半数を占める保育園で、「ベビーカー使用禁止」などと、果たして本当に小学校が要望しているの?」

 そう疑問に思った保護者のCさんが、市役所に尋ねたところ、次のような回答がありました。

「小学校側は、校庭使用禁止も、ベビーカー使用禁止についても、なにも言っていないそうですよ」

 保育科の担当職員から、そんな回答が返ってきたことで、Cさんは保育園に対する不信感を強めました。

「市役所からのアナウンス」と嘘をつく

 さらに、こんな不可解な証言もありました。

「園長から突然、『来月から、保育延長時の補食を食べることができるのは、19時以降お迎えの子のみに限ります。他の保護者から、クレームが入るかもしれないから』と言われて、寝耳に水で混乱しました」(保護者のDさん)

 X保育園の通常保育時間は18時まで。そのため、18時を過ぎると延長扱いとなるのですが、18時50分お迎えの子は、お腹を空かせて他の子が食べているのを、眺めていなければならないということ。急な変更で多くの保護者が戸惑いました。

「急な都合で16時頃に延長の申し出をしたところ、お迎えに行ったときに、『今日は補食連絡締め切りの15時まで連絡がなかったので、捕食は出ませんよ』と言われたこともあります」(Dさん) 

 従来は、15時を多少過ぎても対応できたので、不満を感じるのも仕方がないことです。

 その後、補食についてはDさんが言われたとおり、「19時以降お迎えの園児のみに与えることに変更となった」といった連絡事項が配られました。しかし、違和感を覚えたのが、その理由が「市役所からのアナウンスにより」となっていたこと。

「当初の、『他の保護者からのクレーム』というよくわからない理由はどこにいったのかと思いました。しかも、わたしは他園に兄弟を通わせているのですが、その園の保育士さんに『そんな新ルールができたのか』と聞いてみたところ、『いいえ、市役所からは何もありませんよ』と言われた」(Dさん)というのです。

 つまり、Z園長は嘘をついていたようなのです。 ちなみに、兄弟を通わせていた別の保育園では、18時15分すぎてまだ園にいる子全員に、補食をあげており、急な対応ができるように、いつも多めに補食を用意しています。

「そもそも、Z園長は、挨拶もきちんとしてくれないのでおかしいと思っていました。通園時、同じタイミングで園に入るとなったとき普通はそこに保護者がいたらドアを開けて待っていませんか? 

 でも、目も合わさずに小声で挨拶をして、さっさと1人だけ入っていってしまうんです」(保護者のEさん)

本部も交えて懇談会を開催するも…

 多くの保護者が違和感を抱えつつ、水面下で悶々とした日々をすごしていたある日、とあるきっかけで集まった保護者たちが、「わたしも」「わたしも」と違和感を吐露。「ひとりひとりで園長に言うから伝わらないのではないか。保護者がまとまって、本部の人間も同席させた懇談会を開こう」と、懇談会が実現することとなりました。

 保護者らは「事前に意見や質問を用意してほしい」という園側の要望通り数日前に資料を渡した上で、いざ懇談会。「コミュニケーション不足の解消」という名目で、保護者10数人と園長、本部、担任が対話をすることになりました。

「開催までも、『土曜日は私が休みなので開催できません』『1時間しか時間は設けられません』『参加保護者の園児に補食は出ません』など言われるなど紆余曲折ありましたが、他保護者の尽力や本部の厚意により、妥協点を見つけることができ、開催にこぎつけました」(Eさん)

 その内容はどうたったのでしょうか。

「当日は、担任の先生への意見や質問には、ひとつひとつ自分の言葉で説明してもらい、納得できました。ですが、園長や本部は、『検討します』など通り一辺倒なものばかり」(Eさん)と、かなり不満が残る内容でした。  

 そして翌日、別の問題が発生します。  

 保育園入口の棚に、保護者が作った資料と保育園からの回答書を綴った冊子が、無造作に置かれていたのです。

「他の保護者が見ていたので私も気づきました。表紙には<懇談会の報告>とあり、ページをめくると私たち参加保護者の名前が書かれていました。まるで私たち参加者が“クレーマー”として晒されているような気分になりましたよ」(Eさん)

保育園の掲示された「懇談会の詳細には、出席した保護者の氏名も記載されていた

 すぐに園長の元へ撤去を求めにいくと、「すぐに公表したほうがいいと思って」と、ずさんな個人情報管理にまったく無自覚だったといいます。さらに本部にも連絡すると、「私は知らなかった。下の者がやったからそちらに連絡をしてほしい」などと対応されるなど、「どこまでも不誠実な対応をされた」(Cさん)たといいます。

子供間の暴力問題が発生

 さらに同じ頃、別のクラスでは力の強い園児が、ほかの園児たちに暴力を振るう出来事が発覚しました。 「ひとりの子は病院に行くほどの怪我をしたそうで、市役所に何度も訴えて見回りにきてもらっていました。それでも園長はうやむやにしたまま放置しただけでなく、被害園児の保護者に、『そちらのお宅にも問題があるのでは』なんて一番言ってはいけないことを言ったんです。結局どちらの子も転園することになりました」(保護者のFさん)  

 この1年間のうち、こうしたトラブルの対応を求めて、保護者たちは市役所へ何度も連絡したと言います。 

 そして、年度途中のとある日、「今後の園運営に関する報告」と題された懇談会が急遽開催されました。そして、新たにエリア担当となった本部社員から、Z園長の退園が報告されたのです。

「その理由は、『腰痛が悪化したから』というものでした。これまでの問題は、保護者から質問しないかぎり一切語られませんでした。最後まで、保護者の話を聞かず、いい加減な対応に終始したX保育園“らしい”対応でしたね」(Fさん)

 とりあえず、Z園長が異動となったことで、今までのようないい加減な対応は無くなりますが、次に来る園長がまた同じようないい加減な対応をする人であれば、問題は解決しません。

 本当の問題解決は、まともな運営をして、保護者にも誠実に対応してくれることなのです。その後、配属された新園長はZ園長と真逆の人で、誠実な人柄かつ、しっかりとした保育の理念を持つ人物でした。園児をはじめ保護者も、不満もなく過ごしているようです。

最後に

 最後に、改めて、保護者たちの要望と、そのために取った行動を振り返ってみましょう。 X認可保育園に対して、保護者たちの要望は以下のようなものでした。

・捕食の問題など、対応可能なものは保護者の要望を聞いてほしい
・Z園長については、嘘をつかず、きちんと対応してほしい
・子供の怪我の問題が発生しており、Z園長で対応できないのであれば、園長を交代してほしい

 こうした要望は、保育園に預けている保護者であれば当然の内容だと思います。そこで保護者たちは以下のような対応を積み重ねてきました。

・懇談会の開催を要望
・何度も保育園と本部に問題点や要望を伝える
・何度も区役所に投書

 保護者たちが色々と動いたことが効いたのか、とりあえず、園長は交代となりました。「本部のエリア担当が変わったことや、区役所からのプレッシャーが大きくなったから、運営会社としては園長の交代を決断したのではないでしょうか。私たちがどうにかしたという感覚はあまりないですね」と、保護者たちは言います。

 なお、今回は全国展開している保育園の系列園だったので、他の保育園や本部から園長を連れてくることができますが、オーナー保育園では園長をやめさせることはほぼ無理でしょう。現在は、待機児童が大量に発生するような「保育園不足」の時代なので、こうした問題はあまりクローズアップされていませんが、「オーナーのワンマン園長による、ずさんな運営を止められない」という問題は、社会問題化していくかもしれません。  

 結局、Z園長の突然の交代につながりましたが、これで問題は終わりではありません。先ほども書いたように、Z園長をやめさせたいのではなくて、園長にきちんと対応してほしいというのが本当の要望です。子どもの命を預ける保育園だからこそ、保護者と保育園との信頼関係がもっとも重要なのです。今後、新しい園長、保護者、子供たちがきちんと信頼関係を作って、素敵な保育園生活を送れることを望むばかりです。