「株式会社の保育園より、社会福祉法人の方が安全」が間違っている理由とは?【脇貴志のコラム】

「株式会社の保育園より、社会福祉法人の方が安全」が間違っている理由とは?【脇貴志のコラム】

連載「本音で語る、保育園のほんとの話」(第1回)」
(保育園の危機対応アドバイザー・脇貴志)

 今回から連載をスタートいたします、脇貴志と申します。私は、事故やトラブルを起こしてしまい、自分たちでは対応できなくなった保育園のコンサルティングをしています。そのため、トラブル発生時に園の内部を見てきました。この連載では、私が16年間事故現場で見てきた保育施設の事実を元に、危ない保育園の見分け方、事故やトラブルの発生する原因、予防策などを少しずつ解説できればと考えております。

 私は2003年5月より、保育園や幼稚園で事故が発生した場合の事故対応のアドバイスをするという仕事をしております。立ち位置といたしましては、施設側なので、保護者の方々とは対峙する側の仕事をしております。

 とはいえ、第三者として事故の現場を間近に見てきた人は少なく、現在の保育施設の実態や、働く人の意識、保護者の考え方などを中から見てきたなかで得られたことは多岐にわたります。

 そこで、保育施設を利用する保護者やそこで働く保育士のみなさんが知っておいた方が良いと思われる情報を発信していきたいと思います。

 第1回目は、「そもそも保育園は安全か?」というテーマなのですが、答えを先に言います。

 「特別な対応をしていない限り、安全な保育園は存在しない」というのが私の答えです。普通に園に通わせていて、安全に関する情報が見えなかったり、聞こえて来なかったりする園は、いつ大きな事故が起きても不思議ではないと考えていただいて問題ないと思います。

保育園が安全ではない4つの理由

少しショッキングな話だったかも知れませんが、保育園が安全でないことには、4つの理由があります。

保育園が安全でない「4つの理由」

  • ①子どもの体が未発達であること
  • ②子どもの脳が未発達であること
  • ③保育園自体が「集中リスク」であること
  • ④保育園で働く職員は安全についての専門教育を受けていないこと

1つずつ説明いたします。

①子どもの体が未発達であること」「②子どもの脳が未発達であること」の理由は言うまでもありませんし、仕方のないことです。保育園に通う子どもは、体も脳も発達途上です。自分自身に襲いかかって来るさまざまな危険に対して、体もすべての危険に耐えられるわけではありませんし、脳も危険が迫って来ていることを認識し、回避行動を取るように指示できるわけでもないのです。そういった状態なので、危険に対して無防備であると言っても過言ではないでしょう。

③保育園自体が「集中リスク」であること」は、危機管理の専門用語なのですが、投資の世界などで例えられることがある「1つのバスケットにすべての卵を入れてはいけない」という格言の逆の状態です。つまり、リスク分散の逆、集中リスクという状態です。自分が持っている卵(投資の場合はお金)を1つのバスケット(1つの投資商品)にすべて入れてしまっては、そのバスケットを落とした場合、あなたの持っている卵のすべてが危険(損失)な状態にさらされてしまいます。だから、いくつかのバスケットに分けた方が無難です。ということです。これに照らし合わせて見ますと、保育園とは危険に対して無防備である子どもを多数預かる施設です。つまり、園児の数だけ集中リスクの度合いも高くなっているということなのです。

「④保育園で働く職員は安全についての専門教育を受けていないこと」に関しましては、意外と子どもを預ける保護者の方々もご存知ない方が多く見受けられます。保育園で保育士として働くには、国家資格である保育士資格が必要です。この資格を取得するまでに安全の教育は受けません。衛生面や成長に関しての安全知識は少し学びますが、事故発生のメカニズムや子どもの発達と事故の相関関係や、事故発生時の対応方法などは、学びません。保護者のみなさんは、保育士が有資格者であるため、安全(事故)に関する知識は専門家レベルで持っているものだ。と思い込み、疑いもしていないのではないでしょうか。残念ながら、保育士資格を取得しただけでは、子どもを安全に観るための知識もスキルも持っていないのです。

玉石混合の保育業界

 これまで書いてきたことで、保育園はそもそも安全ではないということがお分かりいただけたと思います。保育士も資格を取ってから、働く場所(園)によって、安全の知識とスキルが身につくか、つかないかが決まるのです。

 現在の保育業界は、さまざまな施設運営者がいます。社会福祉法人、株式会社、NPO法人、個人などです。私は、講演に行った先で、「どの運営者が運営する保育園が安全ですか?」という質問を受けることがあります。そのようなご質問には、「わかりません」と答えます。社会福祉法人の方々は、株式会社なんかよりも、あなた方の方が安全です。と答えて欲しいみたいですが、わからないというのが、私の答えです。

 一般的に、私立より公立の方が安全だ。認可外より認可の方が安全だ。株式会社よりも社会福祉法人が運営している園の方が安全だ。と思われているようです。しかしながら、これは都市伝説でしょう。正しくは、意味のある安全対策を適切にこなしている園が安全なのです。種別ではありません。

 私は、仕事柄、安全に関して、とんでもない手抜き保育をしている公立保育所を見たこともありますし、認可よりも安全に気を配っている認可外保育施設も知っています。社会福祉法人でも株式会社でも、安全に関しては、雲泥の差が生じているのが現状です。

 このような現状に対して、子どもの命を預ける保護者のみなさまは、園を見極めなければならないし、預け先を選べない以上、園内の改善につながる適切な要求をしなければならないと思います。

保護者が、安全に対して無関心なのも原因

 これまでの保育現場で起きている重大な事故は、保育に携わる人たちの安全に関する知識のなさ、スキルの低さが原因ですが、保育園を利用する保護者のみなさんの安全に対する無関心も原因だと私は考えます。

 私は、この連載を通して、保育園に関わるみなさんが安心できるような園づくりに役立つ情報を発信したいと思っています。次回は、保育園の安全はどこを見れば評価できるかについて書きたいと思います。
※保育施設は、まとめて「保育園」と記載いたしました。「認定こども園等」も含まれています。