コロナ禍で、保育士の就職や転職状況はどうなっている?

コロナ禍で、保育士の就職や転職状況はどうなっている?

コロナ禍で、休園や賃金カットが起こった保育現場。「保育士を辞めたい……」といった悲痛な声も漏れ聞こえてくる中で、転職を検討する人も多いです。今回は、コロナ禍での保育士の転職や就職についての現状と、気をつけたい点をまとめてみました。
(ライター・松原夏穂)

コロナで悲痛な現場の声

保育士の仕事は、コロナ対策で増える一方といわれます。

さらに、換気やこまめな消毒などで対策は十分に取っても、感染リスクとは隣り合わせ。保育士のストレスや不安は増す一方です。

日本経済新聞などの報道によると、
「大好きな子どもたちや保護者と関わる素晴らしい仕事だが、もう限界だ」
「自分の教室で集団感染が発生したらどうしよう」
「仕事は好きで誇りに思っているが、身近に感染者が出るなどのきっかけがあれば辞める」
との声も聞こえてきます。
参照:日本経済新聞「『園児が集団感染したら……』負担増す対策 保育士もう辞めたい」(2020年7月27日付)

保育従事者には支給されない「支援金」

保育士は大変な仕事ですが、その割には報われないという思いが保育現場には強いです。
厚生労働省は、介護・障害施設、救護施設等の全職員に、コロナ禍で接触を伴う業務を行っていることに対し、最大20万円の「支援金」支給を決定しました。しかし、保育所・児童福祉施設などは「患者と接する」ことがないとして、対象外になっています。

このような状況を受け、全国社会福祉協議会は厚生労働大臣に、「新型コロナウイルス禍に対応している保育所・児童福祉施設の全職員へ『慰労金』支給を求める緊急要望」を提出しています。「地域で感染が急激に広がる危機的な状況下でも子育てしている看護師・医師等の子どもを受け入れ続けるなど、社会維持と生命を守る人たちのために、保育を継続してきました」などと訴えています。

国民民主党、立憲民主党、社民党の共同会派厚生労働部会も厚生労働大臣に、「新型コロナウイルス感染症対策に関する要望~保育所や学童保育で働く者にも『慰労金を』~」と題する要望書を提出しました。

「保育士等は、自身の感染リスクのみならず、万が一にも大切な子どもたちを感染させてはならないと神経をすり減らし、懸命な努力を続けている。処遇が低い状況にありながら、濃厚接触が多い保育所や学童保育の現場で使命感を持ち懸命に働く者に対して、5万円の慰労金を支給すべきである」と金額も示しています。

出所:全国社会福祉協議会「新型コロナウイルス禍に対応している保育所・児童福祉施設の 全職員へ「慰労金」支給を求める緊急要望 (令和2年度第二次補正予算案)」(令和2年6月1日)
出所:共同会派厚労部会「新型コロナウイルス感染症対策に関する要望~保育所や学童保育で働く者にも『慰労金を』~」(令和2年6月1日)

独自の裁量で支援をする自治体や企業も

自治体や企業の中には、独自の裁量で「支援金」を支給するところも出てきました。

千葉県佐倉市は、幼稚園、認可保育園、認定こども園、認可外保育園などに勤務する保育士らに慰労金を出します。原則直接雇用で、主たる勤務場所が対象事業所になる方を対象に、「慰労金」支給を決定しました。
・雇用保険に加入……5万円(最大20万円)
・1日1時間以上、かつ、1週間に1日以上保育業務等に従事……2万円(最大8万円)
が対象です。

その他、以下のような動きも出ています。
・岡山県倉敷市では、市内の保育士全員に1人最大5万円の慰労金支給
・沖縄県中頭郡北谷町では、1人1万円の慰労金支給
・京都府福知山市では、今後国が支援を制度化しない場合、独自の慰労金を支給することを検討
・保育園グローバルキッズを運営する、㈱グローバルブリッジホールディングスは、緊急事態宣言下で勤務の保育士に「感謝金」を支給を決定。5月の勤務日数は10日以上の職員には1万円を、5日以上勤務した場合は、5千円の支給

介護・障害施設、救護施設等の職員も、子どもを預かってくれる場所があるからこそ、働けます。ぜひ、保育士への支援を広げてほしいものです。

出所:佐倉市「佐倉市保育業務等従事者慰労金について
出所:両丹日日新聞「コロナ拡大中勤務の保育士らに独自の慰労金を 福知山市長が検討の考え」
出所:山陽新聞「保育士に慰労金最大5万円 岡山・倉敷」
出所:琉球新報「保育士に慰労金1万円 北谷町 コロナ打撃の宿泊業者にも給付金」
出所:グローバルブリッジホールディングス「新型コロナウイルス対策 緊急事態宣言下で勤務の保育士に「感謝金」を支給することといたします。」

転職や就職の現状について

では、実際の保育士の転職市場の状況などはどうなっているのでしょうか。
元保育園園長と保育専門学校教員の2人に、保育士の転職や就職の現状について伺いました。

保育士の転職に詳しく、元保育園園長でもある藤森みずほさんは、以下のように話しています。

もし、コロナ禍で不当な扱いを受けて「辞めたい」と思った場合は、「すぐに退職・転職」ではなく、まずは園長やオーナーに相談すべきでしょう。それでも駄目なら、労働基準監督署、「介護・保育ユニオン」などに相談して、しかるべき対応をしてほしいです。

ちなみに、コロナ禍で、「保育園が休みになったため、保育士の意に反し、一方的に有給休暇を取得させる」という行為が一部の保育園でみられましたが、こうした行為は、労働基準法に違反です。
※介護・保育ユニオン:介護や保育、障害者福祉の業界で働く方の労働相談を受け、職場の改善をサポートする労働組合

それでも転職したいという人もいるでしょうが、実は、コロナ禍での転職は、転職先と十分なコミュニケーションができないという不利な面もあるのです。藤森みずほさんは言います。

個人的には、保育士の方は、今すぐの転職はやめた方が良いかと思います。どこの施設も採用活動より、コロナ対策で手一杯のようです。外部からの施設への立ち入りを、禁止しているところもあります。
面接を行っている場合でも、本社(本部)に出向き、園見学や園長・主任との面接は禁止にしているところが多いです。リスクヘッジですね。
転職希望者にとって、今はかなり不利な状況です。
私のキャリア相談のクライアントさんでも、転職して「あれ?違うな」と思われた方もいます。

なお、藤森みずほさんは、転職の際は、転職会社をおすすめしています。

私としては、紹介会社を使った方が良いと思います。
最大の理由は、エージェントが間に入って、条件交渉をとことんしてくれること。現在の労働条件に不満や不安があって転職を考えるわけですから、条件を満たしてくれる施設を探すことはもちろん、見つかったあとの条件の確認や交渉は必須です。
特に、給与待遇など直接、雇用主に確認しづらいことをエージェントがやってくれるのがハローワークとの違いですね。
ただし、親身になってくれるエージェントでないと。自身の成績のためにとりあえず転職させる、という人もいるので要注意ですね。
複数登録して、利用するのが便利だと思います。

藤森みずほさん:現役の看護師であり、保育士。笑顔で働き続けたい女性のためのキャリアコーチとしても活動中。Noteはこちら。

保育専門学校教員の方のお話

また、現在、保育専門学校などに通っている学生は、どう対応しているのでしょうか。
ある保育専門学校の教員は次のように話しています。

今年の学生の就職活動で気になるのが、先輩の過度な勧誘です。これまで就職フェアなどで大規模募集をした法人が、それができなくなり保育士に、卒業予定者を見学に連れてくるように言っているようです。ノルマがあるのかもしれません。
先輩からの誘いは本当に断りにくいもので、私も学生から相談を受けることが多いです。

なお現在、保育士は完全なる売り手市場です。
保育園は入園希望の見学は制限していますが、就職活動の見学は受け入れているところが多いです。
もし面接の機会があったら、ぜひ「緊急事態宣言時の保育園の対応はどうなっていますか?」と聞いてみてください。ひと昔前なら、とても聞けない質問ですが、切迫した今なら、保育園の危機管理対応力が分かるかもしれません。

なお、保育専門学校などは現在、オンライン授業を行い、実習を省略する養成校もあります。来年以降、保育園に入ってから苦労するかもしれませんが、この状況では仕方がないですね。

一方で、今の学生はオンラインでの対応には柔軟に対応できます。新しい保育のあり方を探る中で、若い保育士がオンライン保育を盛り上げることになればいいですね。

おわりに

保育士を取り巻く環境は想像以上に厳しいものです。

現役の保育士は、有給の強制消化など違法な行いには、きちんと「NO」と伝えるようにしたいものです。もし、転職に踏み切るのであれば、なるべく転職先の保育園とのコミュニケーションをこまめにしたいところです。

また、就職活動中の学生のたくましさを感じました。どんな変化にも対応できる「強さ」「しなやかさ」を持って、社会に出てほしいものです。