HPV(子宮頸がん)ワクチンを受けるべきなのか? 小児科の意見も踏まえた最新事情とは

HPV(子宮頸がん)ワクチンを受けるべきなのか? 小児科の意見も踏まえた最新事情とは

2013年に厚生労働省から「定期接種」対象として認められたものの、副作用の可能性が大々的に報じられ「積極的勧奨の差し控え」となったHPV(子宮頸がん)ワクチンは、受けるべきなのでしょうか。その後の厚生労働省の調査では報道された症状とワクチンの関連は証明されていないものの、定期接種の対象であることは変わりありません。今回は、HPVワクチンの有効性と副作用について、小児科医の意見も踏まえてお伝えします。(ライター・松原夏穂、2021年4月26日)

子宮頸がんとは

子宮頸がんの概要

子宮頸がんとは、子宮の入口部分(頸部)にできるがんです。日本では、毎年約1万人の女性が新たにかかり、約2,800人が亡くなっています。

20代後半から30代という出産年齢のピークに、患者数が増え始めます。

子宮頸がんの原因

子宮頸がんの原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)。このウイルスは100種類以上の型があり、その内15種類程度の高リスク型が、主に性行為によって感染し、子宮頸がんを引き起こします。HPVは感染しやすいウイルスで、子宮頸部の細胞に異常がない女性のうち10~20%が感染します。また海外では性行為の経験がある女性の50~80%が、生涯で一度は感染すると報告されています。しかし感染しても90%以上は2年以内に自然に排除されますが、数年から数十年と時間をかけ、がん細胞へ変化していくこともあります。

子宮頸がんの原因となる、ヒトパピローマウイルス

罹る可能性のある病気 ウイルスの型
高リスク型 ・子宮頸がん
・外陰上皮内腫瘍
(がいいんじょうひないしゅよう:進行すると外陰がん)
・膣上皮内腫瘍
(ちつじょうひないしゅよう:進行すると膣がん)
16型、18型、31型、33型、
35型、39型、45型、51型、
52型、56型、58型、59型、
66型、68型
低リスク型 ・尖圭(せんけい)コンジローマ
(良性のイボが性器や肛門の周りに出てくる病気)
6型、11型

16型と18型が、子宮頸がんの原因の50~70%を占めています。また、ヒトパピローマウイルスは、子宮頸がん以外の病気を引き起こす可能性もあります。

子宮頸がんの症状

初期の子宮頸がんには、ほとんど自覚症状が見られません。そのため、気づいた時にはがんが進行していたケースも。

がんが進行すると、このような症状が見られます。

  • 性交渉の際、出血する。
  • 月経時でないのに、出血がある。
  • 茶色や悪臭を伴う、おりものが増える。
  • 月経血の量が増えた。
  • 月経期間が長引く。
  • 下腹部や腰が痛む。
子宮頸がんが進行すると、下腹部や腰が痛むことがある

子宮頸がんが進行すると、下腹部が痛むことがある

子宮頸がんの影響

検診の結果、初期のがんであれば、子宮を残して手術する方法があります。ただし、妊娠しにくくなったり、早産で赤ちゃんが低体重で生まれる可能性があったりします。

発見が遅い場合、子宮摘出手術や放射線治療の必要があるため、妊娠・出産ができなくなる可能性も。

また、排尿・排便障害やむくみ、骨粗しょう症のリスクの増加などの後遺症が起こる場合もあります。

HPV(子宮頸がん)ワクチンは、3種類ある

上記のような、ヒトパピローマウイルスの感染を防ぐのが、HPVワクチン。現在、ガーダシルⓇ、サーバリックスⓇ、シルガードⓇ9と、3種類あります。対応可能ウイルスや接種スケジュール、接種方法(定期接種か任意接種※)が異なります。

※「定期接種」 法律に基づいて、市区町村が主体となって実施。費用は公費負担(一部自己負担の場合あり)で無料。
「任意接種」 希望者が各自で受け、費用は自己負担で有料。

定期接種の対象は、小学6年生から高校1年生相当の女子。接種方法は、お住まいの市区町村の予防接種担当課にお問い合わせください。この間は、公費助成の無料接種となります(一部自己負担の地域あり)。

接種回数は3種類とも3回で、1年以内に接種を終えることが望ましいです。また、1回目の接種後2、3回目で異なるワクチンを接種した場合の、予防効果や安全性は確認できません。
※サーバリックスⓇは、2021年4月現在供給不足で、接種不可。

HPV(子宮頸がん)ワクチンの種類

ワクチン名 接種の種類 対応ウイルスの型 接種スケジュール罹る可能性のある病気
ガーダシルⓇ 定期接種 16型、18型、6型、11型 初回から2か月後に2回目、6か月後に3回目
サーバリックスⓇ 定期接種 16型、18型 初回から1か月後に2回目、6か月後に3回目
シルガードⓇ9 任意接種 16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型、6型、11型 初回から2か月後に2回目、6か月後に3回目

厚生労働省によると、ガーダシルⓇとサーバリックスⓇの2種類のワクチンにより、16型と18型の感染や、がんになる手前の異常(異形成)を90%以上予防したと、報告されています。

2021年に認可されたシルガードⓇ9は、9種類のウイルスに対応して効果が期待できますが、現在は任意接種のみです。

定期接種(公費)の対象外の場合、ガーダシルⓇとサーバリックスⓇは1回20,000円前後ですが、シルガードⓇ9は1回30,000円前後かかります。
注:医療機関により、金額は異なります。事前に確認を。

HPVワクチン接種の副反応について

一般的にワクチン接種後は、接種部位が腫れたり痛んだりすることがあります。体内でウイルス感染を防御する仕組みが働いているために起こる症状で、大抵数日間で治まります。ただ、インフルエンザワクチンなどの皮下注射ではなく、筋肉注射のため、痛みが強いと感じる場合もあります。

これ以外に、HPVワクチン特有のものとして、めまいやふらつき、失神などが起こる可能性があります。接種後30分程度は安静にして、座ってください。また、当日は、激しい運動は避けてください。

もし、接種後に痛みやしびれ、手足の動かしにくさ、不随意運動※などが長く続いた場合は、まず接種を受けた医療機関に相談を。

※不随意運動(ふずいいうんどう) 動かそうと思っていないのに、体の一部が勝手に動いてしまうこと。

HPVワクチンは合計3回接種しますが、1、2回目で気になる症状が出たらそれ以降の接種を止めることができます。

接種に当たり、不安なことや気になることがあれば、ささいなことでも接種を検討している医院や医師に相談してください。

HPVワクチンは厚生労働省の調査によると、接種後の痛みや運動障害などとの因果関係は、現在専門家の間で検討中です。そのため、厚生労働省としては、積極的な勧奨(個別に接種を勧める内容の文書を送ること)は、一時的に控えています。

しかし、定期接種(接種は無料)であることには変わりないので、希望者は接種が可能です。

子宮頸がんは、HPVワクチンと検診で予防を

HPVワクチン接種で、子宮頸がんを完全に予防できるわけではありません。ヒトパピローマウイルスの中には、HPVワクチンで感染を予防できないウイルスの型も、あります。そのため、厚生労働省では、20歳以上の女性に対し、2年に1回の子宮頸がん検診を勧めています。

子宮頸がん検診で、がんになる前の細胞や治療可能な早期のがんを、見つけることができます。早期発見・早期治療を心掛けましょう。

市区町村では、一部の自己負担で子宮頸がん検診を受けることができます。

筆者長女のHPVワクチン接種体験

筆者の長女は、高校1年生(2021年度現在)。中学2年生だった2019年に、HPVワクチンを接種しました。

筆者と夫は、予防接種するべきと考えていましたが、それでも、自治体から通知が来ないため、忘れていました。長女が中学1年生の後半に気が付き、自治体のwebサイトを検索すると、保健所に相談するように書いてありました。電話を掛けると、後日問診票や説明書、受診医療機関の一覧表が届きました(スマートフォンやパソコンから、申請フォームにアクセスする方法も)。そこから、医療機関に予約を入れました。

初回は問診。筋肉注射の痛みが心配で、長女は気乗りしない顔。説得して、3回の接種を終えることができました。

長女には接種した友人はおらず、「何で、私だけ?」という気持ちがあったようです。「チクッというより、ブスッと刺された感じ。3日くらい痛かった」との感想。

接種から痛みがなくなるまでは、体調の変化に気を付けていましたが、異常はなく元気に過ごしています。

ちなみに。筆者は、毎年子宮頸がん検診を受けていますが、2019年、2020年と再検査になりました。ごく初期の子宮筋腫が見つかり、医師には「異常があったら、すぐ連絡するように」と言われ、検診の重要性を感じました。

そして、長女にHPVワクチン接種をして良かったと、改めて思いました。

小児科医のHPVワクチンの見解

今回、医療監修をいただいた、ゆきこどもクリニック竹下由紀子院長は、HPVワクチン接種について以下のような見解を述べています。

定期接種期間での接種が、望ましいと考えています。しかし、親は受けさせたいものの、接種者である子供がネットなどで否定的な情報を得て反対するなど、親子間で受ける受けないの意見が分かれることもあるようです。正しい知識を得て、納得した上で接種することがよいかと思います。
また、シルガードⓇ9は高価なワクチンですが、より予防効果が高いです。将来的に、定期接種になればよいなと考えています

見解、ありがとうございました。

おわりに

長女のHPVワクチン接種を通じ、認知度の低さを実感しました。現在ワクチンで予防できるがんは、子宮頸がんくらい。

だからこそ、正しい情報を得て娘さんの将来のために、接種も視野に入れていただきたいと思います。

※参考 子宮頸がん予防サイト もっと守ろう.JP
厚生労働省 ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)HPVワクチン
※医療監修 ゆきこどもクリニック(東京都品川区)竹下由紀子院長
地域に密着した「子どものかかりつけ医」として、評判の小児科。土曜日午後の診察や日曜日午前の予防接種と乳幼児検診、オンライン診療など、忙しい保護者にも対応。HPVワクチン接種も行っています。