言葉は人間だけが持つコミュニケーション。でも、「○○しちゃダメなど、否定語ばかりになる」「指示する言い方になってしまう」など保育士だけでなく、親御さんからもお悩みを受けます。子どもの心に響く、「言葉がけの方法」「お約束の仕方」とはどういうものなのでしょうか?(はぁもにぃ保育園 園長 山下真由美)
否定語では、子どもの心に響かない
否定語・命令語ではなく、提案を
親御さんや保育士に余裕がないと、つい否定語、命令語の多い「言葉がけ」になってしまいます。
「廊下は走ったらダメ!」
「電車の中でお話したらダメ!」
この2つはやってはいけないことですが、否定語の「ダメ!」だけでは、子どもは具体的に何をしたらよいかわからず混乱します。
また、
「廊下は、歩きなさい!」
「電車の中で、静かにしなさい!お口を閉じなさい!」
と具体的に言っても、命令口調だと、子どもは保育士や親御さんの顔色や口調、声色などに萎縮したり、恐怖を覚えたりして本来の意図が伝わりづらくなります。
でも、少し言い換えるだけで、柔らかい表現になります。
「廊下はゆっくり歩こうね」
「電車の中では、ありさんの声でお話しようね」
と提案する形にすれば、子どもは恐れずに何をしたらよいか理解しやすくなります。
そして、子どもが適切な行動をしてくれたときには、
「ステキだね」
「静かにしてくれてありがとう」
「ありさんの声でお話してくれて、ほかのお客さんも喜んでいたと思うよ」
などの言葉もかけてあげると効果的です。
脅迫・否定語ではなく、肯定する
「野菜を食べないと、病気になっちゃうよ」
「お片付けしないと、外に遊びに行けないよ」
保護者や保育士でもよくあるのが、こうした脅迫的・否定的な言葉です。他にもあります。
「泣いてばかりの子は、置いていくよ」
「鬼が来ちゃうよ」
「お話聞けない人は、赤ちゃんのお部屋(保育室)に行ってもらおうかなー」
実際に置き去りにするわけでも、赤ちゃんのお部屋に連れて行くわけでもありません。しかし、こうした脅迫的な言い方は逆効果なのです。
こういう言い方を繰り返すと、最初は、怖がったり、嫌がったりして取り組むかもしれませんが、そのうち大人は口先だけだと子どもは学びます。
このような言い方は、家庭でも使いがちですが、子どもを怖がらせたり嫌がらせたりして行動を促すことは、大人でも脅迫されているようで嫌な気持ちになりますよね。
もちろん、「赤ちゃんの部屋」のようなプライドを傷つける言い方も避けましょう。
このような脅迫・否定の言い方は、次のように言い換えるといいでしょう。
「野菜を食べると、元気な身体になれるんだよ」
「お片付けしたら、外に遊びに行こう」
と肯定に換えると、子どももやる気が出て期待が持てるようになります。
そのときに、その子の発達に合わせて、
「先生と一緒にモグモグしてみようか?」
「先生が食べやすいように、小さくしてあげようか?」
「お母さんもここまで手伝ってあげるよ」
など、スモールステップで助け船を出してあげるとスムーズに取り組んでくれます。
問題行動の後に叱るより、先に「お約束」を
問題行動を起こした後に子どもを叱るのは、大人にとってもストレスです。可能な限り、叱らなくてもよい環境を整えたいもの。
それには、「何かをする」「どこかに行く」という行動の前に、子どもと「お約束」をするという方法があります。
どのような点を意識したらよいでしょうか。
スーパーで「お菓子を買わない」お約束
まずは、前述の言葉がけを踏まえ、子育てでよくあるシチュエーションを例を紹介します。
Aくんとママはスーパーに買い物に出かけるところです。
ママ
Aくん
スーパーに着いたAくんとママ。
Aくん
ママ
Aくん
ママ
Aくん
ママ
ママは、「お約束」を破ったAくんを叱りませんでした。でも、お菓子は買いませんでした。もしママが「じゃあ1個だけ買おうね」と言ったら、ママ自身が「お約束」を破ることになります。それを見たAくんは、守らなくてもいいと思ってしまいます。
ちなみにこの親子は、スーパーから出ましたが、問題の場所を離れるとお互いクールダウンができます。そうすると子どもは執着がなくなり、納得することもあります。
「お約束」は守れるものを
「お約束」を作るときに大切なこと。それは子どもが守れるものであるか、です。
子どもの集中力は年齢にもよりますが、15分~30分くらいと言われています。そして、子どもはその集中力が途切れたら、当然つまらなくなって、もっと他に面白いことはないかとすぐに違うものへ興味を持ち始めます。だから、大人のように長時間、じっと我慢したり、耐えたりするのは難しいと理解してください。
「お約束」がいろいろと出てくるのが、お出かけ。私の園での例を紹介します。
保育時間にジュース屋さんにお出かけ
2歳児クラスで、ジュース屋さんごっこをしたときのこと。
Bくん
Cくん
この会話をきっかけに、子どもたちは、「ぼくも、本当のジュース屋さん(ジューススタンド)に行きたい」と盛り上がりました。
1駅5分の乗車ですが、子どもにとっては大冒険。そこで朝の会で「本当のジュース屋さんに行くには、どうしたらいいか」をテーマに、先生と子どもたちで話し合いをしました。
先生
子どもたち
先生
子どもたち
園でのお出かけは、子どもたちの意志に任せています。室内で過ごす子どももいるのですが、このときは2歳児全員が参加することに。
一方、先生方は電車が混まない時間や車両を調べ、下見として現地見学。ジュース屋さんには事前に了承を得ました。
結果トラブルもなく、無事にお出かけができました。子どもたちは満足そうに、園に戻って来ました。
お出かけがうまくできた1番の理由は、「子どもたちがお約束を守れたから」です。子どもは興味のあることに対しては、「お約束」は守れます。
もう少し年齢の高い子なら、お約束を子どもたちに考えてもらってもいいですね。保育士や親御さんから言われたことではなく、自分たちで考えて、言葉に出すことで、自主的に守ろうという意欲もわいてきますし、守ってもらいたいルールも強く意識づけできます。また、先生方が時間帯や所要時間が子どもにとって無理のないものか、また行先が子どもに合った場所であるかを、判断するなどのフォローも必要ですね。
「お約束」の振り返りが大切
ジュース屋さんのお出かけのように、うまくいくときばかりではありません。
そんなとき、「当分お出かけしない!」と極端な選択を取らず、時間や場所が適切だったかなど、振り返りをしてください。そのとき親御さんや保育士が自分自身を責めずに、できなかったという事実を受け止めて、次に活かしてください。
そして、「お約束」が守れたときも振り返り、できたことに対しては、子どもをしっかり褒めてください。
「お約束」を守ると、できることが広がって、楽しいことが増える。子どもたちにそう感じてもらえるといいですね。
おわりに
「お約束」は子どもだけでなく、親御さんや保育士も、守るものです。これには「泣いてもわめいても、受け入れない」覚悟が必要です。
いつどんなときでも守るのは難しいですが、意識はしてください。そうすることで、子どもに「お約束」の大切さは伝わります。
【山下真由美】 板橋区認可保育園・はぁもにぃ保育園園長 / 保育コミュニケーション協会 認定ファシリテーション講師 保育士の為の新人教育、メンタルケア、チームビルディング研修など講師としても活躍中 (イラスト はぁもにぃ保育園・栗林実花)
<編集協力・松原夏穂>